アホリズム

□反実仮想
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私は隣りのクラスの朝長出、というか朝長出の笑顔が苦手だった。

いつの事だったかは覚えてないけど、出会ったきっかけは彼が私を助けてくれた事だった。
それで、なんとなく成り行きで仲良くなった私と彼は、会えば世間話をする程度。つまり、仲がいい方だとは思うんだけれど、私は未だに彼の事が分からなかった。

勿論彼は優しくていい人だ。それなのに何故か私には彼の笑顔が胡散臭く思えてしょうがなかった。彼の笑顔を見る度に私の心には疑問が生まれる。
彼がいい人すぎるから?だから私は彼に裏があるんじゃないかと疑ってるの?

自分でも分からないこの疑問をどうすることもできなくて、気持ち悪くて。私はいつしか彼の事を詮索するようになった。
そもそも、事の発端はそれだった。詮索さえしなければ、今の状況は生まれなかったのだ。

「ねぇ答えてよ、」

今目の前にいる彼が浮かべる笑顔は、私が苦手なものとはまた別のもので。けれども、今初めて見たそれ、全てを見透かすようなそれもまた、私は苦手だと思った。

「もう全部知ってるんだろ?」


"ねぇ?"

そう言って近付いてくる朝長くんは、もはや私の知っている彼ではなかった。

『な、んのこと?』

こ わ い

そう思いながらも何か言わなきゃ、と震える声を振り絞った。
その間にも彼は私に近付いてきていて。
いつの間にか彼と私の間には数センチ程の隙間しかなくなっていた。

「だからぁ」

そして彼は耳元で囁いた。

"俺が4組仕切ってるって知ってんだろって話"

瞬間、自分の肩が跳ねたのが分かった。
今まで聞いた事もないような低い声。
見下すような冷たく無機質な目。彼から発せられる威圧感。


私、ここで死ぬの?

ふと、そんな事が頭をよぎった。
朝長くんから逃げられないのは分かっていた。彼の能力は知っていた。
死ぬんじゃないかって薄々思ってはいた。けど、それが今現実的になった。
だって彼は、私が彼について多くの情報を得ている事を知っている。

「あれ。もしかして俺が恐い?ついこないだまであんなに仲良くしてくれたのに」

弧を描く唇から発せられた声。
私にはもう成す術がなかった。
やだ。もうやだ。
こわいこわいこわいこわいこわい。
死にたくない。

『ふ…うぅっ』


とうとう流れてしまった涙。温かいものが冷たい頬をつたう。私は力なくその場にへたりこんだ。体が震える。
死にたくなんか、ないんだ。

「あはは、大丈夫?泣かないでよ。俺は別に何もしないよ?」

"俺の言うこと聞いてくれたらね"


そう言って微笑んだ彼の笑顔に眩暈がした。






仮想
(ああ、いっそ出会わなければよかったのにね)
(でもそんなのは儚い夢、)
(時にも彼にも逆らうことなどできないのです)







110326


朝長くん死んじゃったけど、これからも書き続ける!




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