長編
□グラリ、傾いたのは2
1ページ/1ページ
昨夜の気分を引きずったまま学校へ登校すれば朝から不機嫌な顔をしているとルーシィに見咎められた。
ナツとあの少女の関係を考え込んでしまい、結局昨夜は家に帰っても眠れず今に至る。
「一体どうしたのよ。またナツ関係?」
「何でそうなる」
「だってあんたがそんな風になるのなんて、最近じゃずっとナツのことばっかりよ」
そんなの考えなくても分かるわ、と断言されれば押し黙る他に術はない。
眠気もあり思考力が著しく低下している今の状態では文句もなにも出てきやしなかった。
少しばかり面倒くさいと思い始めていたが、ふと思い出す。
ルーシィとナツは幼馴染だ。もしや昨日のあの少女の事も知っているのでは、と。
「なあ」
「何?」
「ナツに仲いい銀髪の女子っているか?」
「銀髪の子ねぇ……」
手を口元へと持っていき考え込む仕草をするルーシィ。ここで判明してくれれば、このもやもやとした気分も払拭できる、と期待の視線を送ったが、膨らむ期待とは反対に彼女はゆっくりと首を振った。
「ごめん、分からないわ」
「そうか……」
「何?もしかしてその子が原因で落ち込んじゃってるの?」
「別に落ち込んでる訳じゃねぇよ」
落ち込んでいる訳ではないのだ。ただ、自分の知らないナツがいる事に胸がもやもやと落ち着かない気分になっているだけで。考えても見ればナツは引っ越してこっちに転入してきた訳だし、幼馴染とはいえ知らない事があるのは当然だ。
「前に住んでた街の知り合いだろ、多分……」
そう結論付け、自分にも言い聞かせる。こんなことをぐだぐだと考え続けていても埒があかないし、まず意味がない。
「知り合いねぇ」
ルーシィの含みのある言葉に胸がざわめく。
不快なそれは、昨夜ナツとあの少女を見た時に感じたものと同じものだった。
「結構夜遅くに繁華街にいたんでしょう?」
「だから?」
「うん、だから――……」
ルーシィが何かを言いかけた途端、盛大に引き戸が音を立てる。開かれた先には購買で買ってきたのか数個のパンが入った袋を持ったナツが立っていた。
「グレイ!飯食いに行こうぜ!」
「あ、あぁ」
話題が話題だけに何となく気不味くて言葉を濁してしまう。
しかし、それを気にする素振りのないナツに安堵の息を吐いた。
「じゃあ、オレら屋上行くけどルーシィは?」
「ああ、うん。今日レビィちゃんと食べるから」
「そっか、じゃあ行くぞグレイ!」
早く早くと急かすナツはまったくいつも通りで、特に変わった様子はない。それこそ昨夜の事などなかった事のように。
グレイは早足で屋上へと向かうナツの後ろを追う。ルーシィの何か言いたげな視線を背中に感じたが、振り向く事はしなかった。
「なあ、何か元気ないみたいだけど、何かあったのか?」
二人で他愛もない話しをする中で、何度も昨夜の事を問おうするのを必死に呑みこんでいたら、自然に口数が減っていった。いつもより弾まない会話に不審に思ったのだろう。ナツが訝しげな顔でグレイを覗き込んだ。
「別に大丈夫だ。気の所為だろ」
「そっかぁ?」
腑に落ちない顔をしながら、けれどもあっさりと引き下がってくれた事に安堵する。問い詰められてもまさか昨日繁華街で一緒にいた女の子って誰だ、などとは聞けない。見たのは偶然だが、あまりいい気分はしないだろう。
(いや、聞けるのか?)
同性のまともな友人など殆どいないグレイにとって、ナツとの距離は何処まで詰めてもいいものなのか分からなかった。普通の友人ならこんなこと軽く聞けるのだろうか。
(分かんねぇ……くそっ)
じりじりと焼け焦げそうな思考に苛立ちが募る。
それをナツに感づかせたくなくて、無理矢理少女の事を頭から消した。
「ナツ、そういやもうすぐお前の誕生日だよな」
「ん、ああ。そうだな」
「その日確か休みだったろ。どっかいこうぜ」
昨日購入したプレゼントはちゃんと誕生日に渡したい。平日だったなら学校で渡したがその日は休日だし、ついでに一緒に遊べればと思った。
「んー夕方までなら空いてる。それでいいか?」
「ああ」
夕方までという事に引っかかりを覚えたが、ナツも大概ファザコンだし、聞く限りでは父親もナツを溺愛しているから、大方誕生日は親子で過ごすのだろう。と、そこまで深くは考えなかった。
約束を取り付けたら、どうやってナツの誕生日を過ごそうかとそれだけに思考は集中し、いつの間にか先ほどまでの鬱々とした気分は忘れていた。