FT短編

□追いつきたくて
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進路希望調査――。
今現在ナツの手に握られているプリントの名前だ。


(進路かぁ……)


シャーペンを片手に唸る。

第一希望、第二希望と欄があるが、それらはすべて白紙になっていた。学校生活が楽しくて今の今までこれからの事を考えた事は一度もない。だから書くことといっても思いつかない。適当に医者とか弁護士など大真面目に書いたとしたら職員室に呼び出し、悪ければ精神科を紹介されそうだ。

想像して思わず机にとっ伏した。

思い出して見れば、小さいときの夢はドラゴンになりたいとか乗り物酔いを克服したいとかそんなだ。そもそもナツは小さいころから目先のことに精一杯で、将来の事なんて一度も考えた事がない。養父のイグニールも将来は好きな事をすればいいと、特に進路のことで口を出す人ではなく、いい意味で放任主義の家庭で育っているからか、自分自身そこまで焦った記憶もなかった。

が、そんなナツが柄にもなく進路調査の紙一枚に悩まされている。

理由はたった一つ。


(――どうすっかなぁ……)


脳裏に浮かべるのは数か月前にできた年上の恋人のことだった。名前はグレイ。大学4年のれっきとした男だ。


グレイは美大生で、造形学部に所属している。


もちろん将来の夢はそちらの方向に定まっていて、一応就職先も決まっているということを聞いた。それに比べて自分は、紙一枚に悪戦苦闘している。

まだ一年と少しの猶予はあっても比較対象が傍にいる分、ナツの心にそんな余裕はなく、焦りが生まれるのは仕方のないことだった。就職するにしてもどういう仕事がしたいのか希望もなく、進学するにしても勉強は嫌いだ。無職はイグニールに申し訳ないから避けたいという気持ちもある。かといって適当なところに就職するにも、きちんと夢を持っているグレイを見ていると、そうするのはよくないような気がしていた。

だらだら悩んでいる間に、スピーカーからチャイムが流れる。



(あー……ちくしょう!)



結局その日は悩んでいた時間もむなしく、白紙のまま提出してしまうことになった。










***









人気のない喫茶店のカウンター席でナツは力なくとっ伏していた。

閉店間際の店内には、店員とナツだけしかいない。


「元気ねぇな、どうしたナツ」


店員――グレイは、拭いていたカップを置いて、反応のないナツの頭をカウンター越しに小突いた。

それにナツは、机に顎を置いた状態で視線だけをグレイに向ける。


「今日、進路希望調査があってさ」

「ああ、懐かしいな。で、元気ねぇのはそれの所為か?」

「……んー」


再び目を伏せる。

進路希望の所為ではなく、進路を決めかねている自分に落ち込んでいた。


「なぁ、グレイは高校の時からずっと、夢は同じだったのか?」

「おう。俺の場合はガキのころから目標があったから、ずっとそれしか頭になかったな」

「だよなぁ……はぁ」

「なんだお前もそんな事で悩むんだな」


重苦しいため息を吐くナツに対して、グレイは苦笑する。そんなグレイにナツは恨みがましい視線を送った。


「まぁ、そんなに悩む必要もねぇだろ」

「なんだよ、人事だと思って。こっちは真剣に悩んでんだぞ」


そもそもナツがこうして考え込んでいるのはグレイの所為だ。グレイがどんどん前に進んでしまうのがわかっているから、追いつきたくて焦っている。だというのに、グレイは悩む必要はないという。大人の余裕というものなのだろうか。それがナツには悔しくて堪らなかった。

むすっとしているナツを、グレイはカウンターに肘をついて見つめる。


「別に進路決まらなくてもいいんじゃないか?」

「だからッ」

「俺んとこに来ればいいだろ」

「え……」

「おお、ある意味決まってんじゃねぇか。永久就職になっちまうけどな」


転職許さない、とグレイは付け加え、ナツの額に口付けた。

ちゅっ、というリップ音と共に言葉の意味がナツの頭に浸透してくると、音が出るかと思うほど頭に血が昇っていく。顔を真っ赤にして口を開閉させるナツを、グレイはくつくつと笑った。

永久就職、なんてそんなプロポーズのような言葉を言われてしまったナツは、恥ずかしさのあまり言い返す言葉も思いつかず、ただ俯きながら頬を染めていた。


「お前、ホント可愛いなぁ」

「う、う、うるさいなッ!!そういうこと軽々しく言うんじゃねぇし!」


可愛いいなんて言われてもうれしくない。それに、こんな状況で言われると馬鹿にされているような気がしてならない。


「くそっ、またからかって……」


未だ笑っているグレイを見て、ナツは悔しく思った。

恋人ができたのも初めてで、しかもそれは年上。自分よりも絶対に経験があるだろう事は明白で、こうして度々からかわれるから、自然と警戒心が顔を覗かせる。

すると、笑っていたグレイが突然真剣な顔をして、ドキリと心臓が脈打つ。


「からかってねーよ」

「へ?」

「マジで言ってんだ。こんなこと、軽々しく言えるわけねーだろ……お前だからだ」

「え、あ……う……」


どういう反応をすればいいのか迷って、言葉を詰まらせる。グレイの表情は真剣そのもので、さっきの様にからかっているとは思えない。


「お前一人養うくらいなら自信あるしな。……なあマジで俺んとこ来いよ」

「あ……」


ドキドキと胸が大きく脈打って、考えが回らずナツは混乱した。それは、つまり、今後ずっとグレイと一緒にいられるということだろうか。

ずっと一緒=結婚と言う構図が頭に浮かび、カーッと頬が熱くなる。


「って、いきなり言われても困るよな。お前まだ17だし」

「え、あ、うん……?」

「わり、ちょい焦りすぎた」


真剣だった顔を緩ませ、再びグレイは片付けに戻ると、緊張していた空気が元に戻った。

いきなり放りだされたような空気に、ナツは一瞬ポカンと間の抜けた顔をしてしまう。

当のグレイはというと、素知らぬ顔で作業に没頭しているのか無言だ。でもなんとなく寂しそうな表情をしていることに気付いて、ナツは口を開いた。


「グレイ」

「ん?なんだ」

「別に嫌じゃねぇから」


ピタリと、グレイの手が止まる。


「俺も、グレイのとこに行きたい」

「ナツ……」

「あ、でも高校卒業してからな!それに養ってもらわなくてもいいし…!」


流石に養ってもらう、なんてプライドが許さない。でもグレイと一緒にいられるのはうれしい。素直にそう思った。

そうすると、グレイの表情はみるみる明るくなって、ナツはほっと息を吐いた。


「じゃあ約束だ。お前が卒業したら、俺んとこに永住な決定!」

「おう!」


グレイが言うのと同時に、ナツは満面の笑みを見せる。


ずっと一緒にいられる。


それが嬉しくて、カウンター越しに抱きしめられながら、グレイの胸に頬を擦り付けた。









***









後日、再度配られた進路希望調査票にて。

2年D組 ナツ・ドラグニル
第一希望 ナツ・フルバスターになります。よろしく!

と、書かれていて、担任のギルダーツは首を傾げたのだった。


































・グレイは喫茶店でバイトしてます←言わなきゃわからん><


暇様に捧げます!
が、こんな感じでよろしかったでしょうか!?年の差がお好きということだったので、結構年を離してみました^^しかも勝手に美大生にしてしまいました。返品は随時受け付けます><!




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