FT短編
□オタグレイシリーズ1
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普通に高校生活を送るナツ。
もちろん学校には友達もいるし、いじめられているということもない。テストの点は、まぁ赤点ぎりぎりとは言え進級できるくらいの点数だ。
両親の中も、こっちが目をつむりたくなるくらいにはいいし、家庭環境はもちろん良好。
ごくごく一般的な生活をしているが、一つだけ普通じゃない問題を抱えていた。
「待てよナツ!」
こいつだ。
後ろから声をかけてきたと同時に隠す気もなく大きく舌打ちする。
「お前、にーちゃん置いてくなんてひどくねぇ?」
「だまれ変態、登下校くらい一人でしろよ」
わざわざ追いかけてきたこいつは、認めたくないが残念なことに実の兄貴だ。名前はグレイという。ちなみに年は一つ違い。
一緒に行きたくないからこうやって早く出てきたっていうのに、いっつもいっつも毎回毎回追いかけて来ては一緒に学校に行く羽目になっている。
こいつこそがナツの人生最大の汚点であって、最大のコンプレックスだった。
「いいじゃねぇか、行き先は同じなんだしよ」
「よくねぇよ……」
げんなりしながら呟く。
「それにしても昨日は楽しかったなぁ、もうちょっと時間があればもっと進められたのに」
「あっそ……」
「お前も今度やってみろよ、おもしろいぞ」
けらけら笑いながら進めてくるもの。
大まかな区分で言えばゲームの話だ。
昨日も夜遅くまでやっていたのだろう、目の下にクマができているのを見つけて、ナツは何度目かの溜息を吐いた。
唯のゲームならいい、ナツだって格闘やらRPGならすることもある。
ただグレイがするものはジャンルに大いに問題があった。
「はぁ、もうちょっと時間があればなぁ、折角落とせるところだったのに……」
この落とせる、がゴルフボールやらぷにぷにした物体やらブロックやらだったらどんなにマシか。
今の今までに何度思ったことだろう。
そう、グレイがはまっているのは所謂。
ギャルゲーだ。
それだけならまだいい。
個人で楽しむだけなら、まあ年も年だし偏見するつもりはないし、別にいいと思う。
が、それを現実に持ってこられると話は別だ。
「も、黙れグレイ…」
延々と続くギャルゲー話。朝っぱらから色んな意味で痛すぎる。
おかげでナツには毎朝いらない知識が増えていった。
やったことないくせにギャルゲーの話をされたら答えられてしまう自信がある。ナツは明後日の方向を見ながら、こんな自信は嫌だと心から思った。
「にーちゃんに向かって呼び捨てすんなって言ってんだろ!」
「じゃあなんて呼べばいいんだよ……」
「そうだなぁ。……お兄ちゃん、アニキ…兄さん………いや……お兄様?」
「却下」
自分がグレイの事を兄呼びするなんて、どんな呼び方でも寒気がする。特に一番最後ので呼ぶ自分を想像して身震いした。
「お前がお兄様と可愛く呼ばない限り、俺は返事をしねぇ!」
「じゃあ一生返事をすんな」
声を大にして主張するグレイに斬り返し、ナツは学校に向かって走る。
これ以上朝から精神的に疲れるなら、まだ走って疲れたほうがマシだ。
「あ、おい待てよ!」
追いかけてくるグレイを無視して、ナツは振り切るように全力で疾走した。
END
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お題サイト『Frequente』様からセリフお借りしました!
「お兄ちゃん…アニキ……兄さん………いや…お兄様?」