FT短編

□オタグレイ3
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「お前も苦労すんな……」


小学校来の悪友から心底同情され、今すぐ屋上から飛び降りたくなった。


(こんな屈辱を受けるのは、全部全部全部全部あいつの所為だ!)


ゲームにテレビにパソコン、奴にオタクの三種の神機を与えた両親を心底恨めしく思う。せめて、3、4年ずらして生んでくれればよかったのにと思うのはわがままだろうか。少なくとも学校が違うなら、思春期の多感な時期もまだ平穏に過ごせただろうに。


「もう嫌だもう嫌だもう嫌だホントなんであんな奴が俺の兄貴なんだマジかんべんしてくれありえねぇ」


溜息と同時にノンストップで出た言葉に、ガジルの顔が引き攣った。
こうも言われ続けるとナツに同情してしまうのは無理もない。
自分の兄、もしくは弟があんなだったら恥ずかしい。


「今日は何されたんだ?」


ナツがこんな風になっている時は大抵、兄のグレイ関係で何かあった時だ。
いい加減、最近は兄の奇行にも慣れたもので、それに対して文句を言うことはあっても落ち込むこんだりすることはなかった。しかし、自分に害が及ぶとそうも言っていられないらしく、時たまこうして自暴自棄になったりすることがある。

ぎぎぎ、と音がしそうな動作で首を動かしたナツと目が合い、ガジルは言葉につまった。


「…きいてくれよぉ……」


もはや涙目だ。まるで苛められた子猫のような顔で見てくるナツに、ガジルのスイッチが入る。こういうのに滅法弱いガジルは、どうも面倒を見てやりたくなるのだ。


「おう、言ってみろ」


腹を決めた、というような表情でどかりとナツの前に座った。


「今日な……」


遠い目をしながら、呟く。いつも好奇心旺盛に輝いている猫目は、さながら死んだ魚のようだった。









***










いつもだったら、ぎりぎりでも学校に行く直前には部屋から出てくるグレイが、今日に限って出てこない。大方寝坊でもしてるんだろう。自分には関係のないことなので放っておこうと思っていた時だった。
見かねた母が起こしてきてくれと言ったが為に、ナツはあの魔の部屋に行かなくてはならないことになった。嫌だ、と言いたいが、母はとんでもなく恐ろしく、逆らってはいけないというのが我が家の暗黙の了解だった。


「ちぇ、一人で起きろよな」


どうせ起きれないのも、遅くまでギャルゲーをしてたからだろうに。自業自得だ。部屋の前に立つと、ナツはどんどんと遠慮なしに扉を叩く。


「おい、ばかグレイ!早く起きろよ」


返事はない。もう一度扉を叩き、終いには蹴った。盛大な音を立てているのに起きる気配はない。
しかし、どうしても部屋に入るのは嫌だ。出来れば同じ空気を吸いたくないというのが本音なので、ナツは扉の前で粘り続けた。


「なあ、もしかして死んでんのか?」


そういった声は若干弾んでいた。
そういうことなら、と嬉々としてナツは扉を開け放つ。


「………」


瞬間。嬉しそうに緩ませていた頬を、引き攣らせる。そして間髪いれずに扉を閉めた。見てはいけないものを見てしまった衝撃は計り知れない。

グレイの部屋は良くも悪くも変わっていなかった。ただ一つ、以前は見かけなかったものが多少増えていただけで。


「母ちゃんごめん。起きねぇ。もう時間ねーから学校いくなー」


時計を見ればぎりぎりの時間だ。十分な言い訳に、ナツはすぐさま家を飛び出した。







ナツにそっくりなキャラクターが描かれた抱き枕を、大事そうに抱えて眠っていたグレイを放って。









***








「そう言えば昨日の夜、なんかでけー荷物が届いたなって。まさかあれ売りもんなのか?手作りじゃなくて?それはそれで気持ちわりーけどよ。ははは」


そうやって笑うナツの瞳は虚ろだった。ちょっと制作会社訴えようかな、なんて言う所は本気が入っている。


「ま、まあ。愛されすぎるのも大変だな」

「はあ?気持ち悪いこと言うなよ」


真顔でぎろりと睨まれて、ガジルは思わず、すまん、と返した。

色々と話を聞くうちにグレイはナツのことが好きすぎるんだろう、とガジルは感じ取っていた。
可哀想なのは、兄に愛されすぎて日常的に被害を受けるナツなのか、それとも愛する弟に嫌われ過ぎている兄のほうなのか、ガジルには判別できない。






しかし、弟大好きすぎて、もはや異常行動を起こしているグレイにも、若干の同情を覚えてしまったガジルだった。














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