FT短編

□指先から分け与える
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指先を傷つけて、あえて皮膚の内側を流れる血を引き出す。別に被虐趣味があるわけじゃあない。これはあくまで“食事”の為だ。


「グレイ、嫌だ……」

「んなこと言ってる場合じゃねぇだろ」


血の玉が出来た指先を、ベッドに力なく横たわっているナツの口元に持っていく。すると、顔を背けて拒絶してきた。吸血鬼がかかる特殊な風邪とやらでナツが倒れたのが3日前だ。そして最後の食事をしてからもう5日も経っている。

吸血鬼の身体のことなど分からないが、病気と言うからには食べ物を摂取して体力を付けなければ治るわけがない。ベッドの住人と化したナツに外に食事に行く力があるとは思えないし、かといってグレイの血を強請りもしない。

回復するどころか日に日に顔色が悪くなっているナツに、いい加減我慢の限界だった。


「グレイは、友達だから。駄目だ……」

「俺がいいって言ってんだろ」

「あ、んむぅっ!?」


口を開いた瞬間に指を中に入れる。驚かれて一瞬噛まれそうになったが、すぐにその口は開かれた。久しぶりの血の味に抗えないのか、恐る恐る指に舌を這わせてくる感触がする。


「ん……」


小さく吐息を漏らして、蕩けた瞳で必死に指先を舐めてくる。微かな痛みと、ナツの舌がもたらす何とも言えない感覚に目を細めた。
音を立てながら、もっとと強請る様に指先を吸いあげる。舌が接触するたびに上がるぴりっとした甘美な痛みが、ナツに求められているようで胸の奥が疼いた。

ナツの――吸血鬼の牙は餌に快楽を運ぶ毒を持つ。ナツの場合、その効果が自分にも及ぶからか、友人と言うグレイに、吸血行為をすることを極端に嫌がっていた。ナツに好意を持つ者としては複雑な思いを抱かずにはいられないが、嫌がる事はしたくないと思うのも事実。


要は牙にさえ触れなければいいということと、今はナツの体力を回復させなければという一心での判断だった。


「もっと欲しいか?」


そう言えば、熱に浮かされたような顔をしていたナツが、はっと我に返る。


「、いいっ。もういらねーよ」

「我慢すんな」


さっきの様子を考えると、あからさまに嘘をついている事が分かって溜息を吐く。痛みが走るのも気にせずに、グレイは自分の手首にカッターを押し付けた。


「グレイ!」


先ほどとは比にならない出血の量に、ナツが悲鳴を上げる。心配しているがよく分かる表情の中に、瞳だけが不思議と輝いていて、やはりどんなに嫌がっても血を渇望しているのだと察した。


「ほら、もったいねーだろ」

「っ……」


シーツに零れ落ちる赤い滴を見せびらかす様に目の前に持っていけば、ナツは辛そうに目を細めながらもそれを舐めとった。指先よりも大きな傷に舌が這い、ジクリとした痛みが伝わってくる。

唇が這い舌で血を絡め取られて、最後に離れた時には傷はすでにそこにはなかった。

牙の毒など入っていない筈なのに、燻る熱に誘われるがままナツの頬に手を這わせると、そのまま口づけを施す。柔い唇の感触と、先ほどまで指と手首に這っていた舌を絡め取れば、弱り切ったナツの身体がびくりと震えた。

血に酔っているからだろうか、何も言わずに受け入れてくれる事に気を良くして、そのまま口内を侵す。ちゅ、と濡れた音を響かせながら、微かな血の味がする舌に夢中にならずにはいられない。

熱があるせいか、以前口づけた時よりも口内が熱い。漏れる吐息が発する熱も相まって、グレイ自身の熱を引きずりだす様に酷く興奮した。


舌先に当たる鋭い牙すらも愛おしくて、熱を持て余した二人はそのまま互いの唇を貪りあった。




***




ぐったりとしているナツに、些か無理をさせすぎたか、とグレイはほんの少しだけ反省していた。

なんとなく、吸血鬼というものは“そっち方面”にはかなり慣れていると思っていたのだが、それはどうやら偏見だったらしい。

ベッドの上で丸まっている桜色の髪を弄りながら、グレイはそっと紅潮した頬に口づけた。赤く染まった頬が熱の所為だけではないことに気付かないまま。





END





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