FT短編

□哂う獣
1ページ/2ページ



・トヲル様から許可頂いたデビルハンターグレイ×小悪魔ドラグニルネタ
・長い
・GO姦注意!
・最初に言います^^大変申し訳ありませんでした!orz素敵なネタを穢してすみませんとしか言いようがない。










日が西に傾き地平に堕ちる時刻、グレイはとある街に辿りついた。

必要最低限の荷物が詰められた袋を背負い、街を歩きながら今夜の宿を探すために周囲を見渡した。海が近い為に石造りの民家が殆どを占めている街は、日に照らされて橙色になっている。

視線を動かすと、大通りには子供の姿が目立つ。大人たちは遠く離れた場所で談笑しながら、子供たちが遊ぶ様子を見守っている。魔の者が蔓延るこの世界で、こういった平和な光景はとても珍しいものだった。この街が海と山に挟まれた閉鎖的な街だからだろうか。
子供たちの楽しそうな笑い声と、大人たちの優しい視線。

グレイがまだ子供だった頃は、こういった光景が当たり前のものだった。人間界と魔界はしっかりと統治され、互いの境界線がしっかり線引きされていたからだ。

しかし、10数年前――ゼレフという悪魔が復活してから魔界の勢力が二分化し、世界は混乱した。ゼレフは独自の力から強力な魔物を作り出して、人間界に送り込むことを繰り返したからだ。


それからはもう地獄だ。


魔界との境界線がゼレフによって取り払われ、魔族やその使い魔である魔物達が自由に行き来するようになり、それまで平和に暮らしていた人間達は、抵抗する術を持たずに死んでいった。このまま人間は滅ぶのを待つのみだと言われるほどに、力の差があった。しかし人間は大きな力こそ持たないものの、その技術力で強力な武器を作り出し、悪魔たちに対抗し始めた。


その強力な武器を使いこなし、悪魔を狩る者たちを“デビルハンター”と言う。


中でもグレイは、優秀なデビルハンターとしてその名を連ねていた。


かしゃりと手の中にある、二つのリングが音を立てる。鈍色のリングには、細かく刻まれた模様と赤い石がはめられており、一見すれば精巧な腕輪のようにしか見えない。

グレイが新しく手に入れた武器だ。殺傷能力はないが、悪魔の動きを封じる事ができるという点では、これから大いに役立つだろう。

悪魔を狩り続ける先に何があるのかは分からない。だが、生まれ住んだ街を悪魔に滅ぼされたグレイは、ただ復讐の為だけにデビルハンターとして憎い敵を狩り続ける。悪魔になら、どんなに冷酷にだってなれた。自らが氷の悪魔と呼ばれる程に。






ふと、甲高い子供の泣き声が聞こえた。それと同時に耳障りのいい少年の声がする。目を向けると一本の木の下で数人の子供と、彼らよりも身長の高い――黒いローブを纏った人物が立っていた。


「どうして泣くんだよ。何かあったのか?」


子供に問いかけたのは黒いローブを纏った人物だった。フードを被っていた所為で顔が見えず、年齢も性別すらも分からなかったが、声は先ほどグレイが聞きとった少年のものだ。


「この子の風船が木に引っかかっちゃったんだ」

「ふうせん?」

「あれだよお兄ちゃん」


少年は、子供が指差した方へ目を向けた。グレイもつられて見てみれば、木には確かに水色の風船が引っかかっている。しかし、十数メートルほどにもなる木の天辺近くに引っかかっている風船は、そう簡単に取れそうもない。


「よし!じゃあ俺が取ってきてやるよ」

「本当!?」

「ああ、ちょっと待ってろ」


少年がそう言うと、それまで泣きべそをかいていた子供がぱっと顔を上げて目を輝かせていた。現金なヤツだ。準備運動とでも言う様に腕を回しながら、少年が木に近づいて行く。


「おにーちゃんがんばれッ!」

「おー」


余程の運動神経がなければ登りきれないだろうと、その様子をただ見ていた。しかし子供たちの声援を受けた少年は、予想に反して軽々とした身のこなしで登っていき、あっという間に風船に手が届く所まで上り詰めてしまった。


(なかなかやるな、あいつ)


あの動きは普通の人間ではできない。もしかして同じデビルハンターだろうかと考えた。

しかし少年が風船に手を伸ばそうとしたその時、強い風が吹いた。

木が揺れる程の強風は、引っ掛っていた風船をふわりと浮かせる。

あ、と誰かが呟いて、次の瞬間飛んでいこうとした風船に手を伸ばした少年の身体が傾いた。




落ちる。




「お兄ちゃん!!」


子供たちが目を塞いだその時。グレイだけは目を閉じず、視線を外さず、その少年に目を奪われていた。黒いフードが風に舞い、その下からは鮮やかな桜色と、あどけない顔立ちを際立たせる大きな瞳。


そして―――金色の角。


「はい、これ」

「え?」


その声に子供達が目を開けると、そこには落ちたと思った少年の姿があった。少年は落ちたその瞬間、風船の紐を掴むと身体回転させてバランスを整え、見事着地してフードを被りなおしたのだ。そんなことも知らない子供達は、風船が取れた事を喜び勇んで、少年に礼を言った後何処かに行ってしまった。


そんな子供たちを手を振りながら見送る少年に、グレイの目はすうっと細められる。


その目は狩りを行う獰猛な獣の目だった。








頭部に生えたあの角。

あれを何処かで見た事がある。古ぼけた文献に乗っていた絵に、あの少年の角によく似たものが描かれていた。描かれていたものは―――その強大なる力で魔界を統治する魔王。

しかし、あの少年が魔王だとは考えにくい。

ならばと行き着いた思考の先が、魔王の息子。もしくは魔王に繋がる血筋のもの。
グレイは宿探しをやめて、少年の後を追った。

街の中で魔族を狩るのは周りへの被害を考えてもリスクが大きすぎる。少年が街を出た所で仕留めることにしたのだ。だが、もし少年が人間を襲う素振りを見せたなら、すぐに狩れるように臨戦態勢は整っていた。

魔族が街中にいるのは例外なく人を襲うのが目的。魔族の性質上、そしてこれまでの経験上、それは100%に近い。しかし、予想に反して少年は大きな動きを見せない。


寧ろ。


道を歩けば困っている人間に手を貸し、ある時は道端に転がっていたゴミを拾い、ある時は迷子の子供を親に送り届けたり、魔族の癖に妙なことばかりをしている。

人を襲いに来たのではないのか。

そんな疑念がグレイの中で渦を巻くが、少年は意に反して魔族の所業とは言い難いことばかりを行っていた。それも、助けた後は何か意地の悪い事を要求するでもなく、上機嫌で去っていくのだから不可解だ。

魔族なのに、どうして人を襲わない。

何故、どうして。様々な葛藤がグレイの中で荒れ狂っていた。自分でも分かるくらいに動揺している。

日が西に沈み、石造りの建物が闇色に染まるころ、少年はふらりと街の外へ向かう。今日は月のない夜。魔族が最も活動を活発にする時刻だ。狩りを目的とする人間以外は、まずこの時間には外に出ない。


「おい」


街から大分離れた所で、グレイはとうとう少年に声を掛けた。少年は驚く事もなく、ゆっくりと振り返る。深めに被ったフードの中から口元だけが見えた。


「お前、魔族だな」


確信をもって放たれた言葉に少年は口元を緩めた。


「おう、そうだぜ」

「……お前、」


グレイを見れば、いや、声を掛けた時点でデビルハンターだと分かるはずだ。しかし少年は警戒心を抱いている様子すら見せない。魔力を放つ事もなく、周囲は波紋もない湖のように平静で。自分ばかりが動揺を隠せないでいる。

一歩、グレイは少年に向かって歩を進めた。

しかし、少年はその場から動かない。


「なんだよ?」


正面――ほんの少し手を伸ばせば、触れてしまう位の距離に来たと言うのに、危機感を感じないのか、それともそんな必要がないというのか、少年は心底不思議そうな顔で見つめてくる。

顔を隠しているフードを後ろにずらすと、少年の頭部には二本の角があった。やはり見間違いなどではなく、魔族だ。

現れた、今は天にない月を溶かしこんだ様な双眸に見つめられ、ドクリと胸が騒ぐ。




あとはもう、殆ど無意識だった。




懐に入れていたリングを取りだし、少年の腕を取ってそれを装着した。少年が驚く間もなく、リングは光を放つと細い手首に合わせてぴったりとその大きさを変えた。


「何っ、何だよこれ!」

「そいつは魔力を封じる道具だ」


リングを模る金属は聖水で清められており、特殊な模様には魔封じの効力がある。そして赤い石は、その魔封じの効果を高めるために魔水晶が使われていた。

少年が力任せに外そうとしても、隙間なく手首におさまっているリングが外れることはない。少年がどれほどの力を持っていたかは知らないが、魔力が封じられてしまっている今、そのリングが砕けることもなかった。


「くそ!これ外せよっ」

「そう言って外すと思うか?」


ぎりっと悔しそうに唇を噛んで、睨みつけてくる。


「―――お前何なんだよ!俺何もしてねーのに!」

「何もしてない、ね。別に何もしてなくても魔族を狩るのに理由なんかいらねぇだろ」


少年の言葉は、やはりどこか常識に欠けていた。世界の理すら分からない、それ故に純粋なのかもしれない異端の魔族。




次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ