ナツ♀小説
□呼べるわけがない
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ナツは堂々とも言える足取りで、遠慮なく音を立てながら兄の部屋の扉を開けた。
ばん、と勢いよく放たれた扉の向こうには、背中を向けて布団の中に埋もれている兄の姿。普通なら起きてもいいくらいの音を立てながらここまで来たと言うのに、以外にも寝汚い兄は未だ寝息を立てていた。
「起きろよ、ジェラール!」
枕に散らばる青い髪が目に映って、ドキリと胸が鳴った。なるべく見ないように、意識を集中しないようにジェラールの身体を揺すると、微かに唸る声が聞こえる。
「ナツ……?」
「早く!腹減った!」
ぼうっとした目で見上げられると、唯でさえ整っている顔なのに、プラス何かが付随されてくる。ジェラールは低血圧で朝に弱い。起き抜けのぼうっとした様子を見ていると、それこそ悪戯しても記憶に残らないんじゃないかと思うほどだ。毎朝、毎朝、心臓に悪くて堪らないのに起こしに行くのは、単にジェラールがいないと朝食にありつけないからだ。
いつも、顔が赤くなってしまうのを誤魔化す様に、可愛くない事を言ってジェラールを起こす。
ベッドヘッドに手を付いて、未だ覚醒途中の兄に早くしろよ、と一喝してナツは部屋を飛び出した。
***
心臓がバクバク鳴っている。
ナツは一足先にリビングに戻ると、ソファに座ってクッションの上に顔を埋めた。火照った顔を少し冷たいクッションが冷ましてくれる。
こんなことで胸が高鳴って、顔が熱くなるのは、ジェラールの事が好きだからだ。その感情をナツはきちんと理解していた。最初はどうしてなのか分からず、名前を出さずにルーシィに相談したら、それは恋だと言われたのだ。
それが始まり。
この世でたった一人の血縁だ。いけないことだというのは分かっている。だけど、一度始まってしまったものは止められない。どうしても、好きだ。
だから一生懸命蓋をして、この気持ちを押し殺しておくしかなかった。兄を好きになるなんて、どう見ても異常だ。周りにそんな人はいないし、聞いたこともない。だからこの気持ちは異常なんだ。もし知られたら、可愛がってくれるジェラールだって気持ち悪がって離れていく。そうしたら自分は独りきりになってしまう。ジェラールも周りに変な目で見られるかもしれない。
だから駄目なんだ。
そうやって自制して小さな箱にしまい込んで、奥深くに閉じ込めて。
誰にも悟られないように、静かに終われるように。
隠した箱がひっそりと灰になったら、また兄と呼べるようになるから、それまでは許して。
END
お兄ちゃん編もあります。兄弟ネタ好きだな……自分の変態さ加減がわかりますね^^!