ナツ♀小説
□無理だと諦めるしかなくて
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*ジェラナツ♀学パロ
*姉エルザ
*幼馴染ジェラール
この学校には高嶺の華と呼ばれる人がいる。
その人は、優しくて、紳士的で、頭もよくて、運動神経もよくて、ついでに言えば顔もスタイルもいい。そんな彼は、教師や生徒からの人望も厚く、生徒会会長を任されている。友達のルーシィ曰く、童話の中から出てきたような王子様。夢みたいな人だそうだ。
その王子様―――などと言うと笑ってしまいそうになるが、その人の名前をジェラールと言う。
そしてもう一人。
生徒会副会長を任されているエルザ。彼女もまた、眉目秀麗文武両道と名高く、ジェラールと同じく高嶺の華と称される人だった。
ナツより一つ年上の彼らは、姉と幼馴染だった。
***
「おはようエルザ」
「ああ、おはようジェラール」
最初にかけられたエルザへの優しい声と柔らかな笑顔に、ナツはドキリと胸が鳴るのが分かった。
「おはよう、ナツ」
「はよ……」
自分よりも高い所にある目と合わせずに、ナツは俯きながら言う。だからジェラールがいつもどんな表情をしているのかわからない。いつだって見るのは、エルザに向ける柔らかな笑顔。その後に向けられる自分への表情を見るのが怖くて、ナツはいつも視線を下に落としてしまう。
ジェラールとエルザ。並んで歩く二人の一歩後ろが、ナツの定位置だ。
すぐ後ろを歩いている筈なのに、二人とナツの距離はとても遠い。
二人―――というよりは、ジェラールとの距離だ。ジェラールにとって、ナツは幼馴染でしかない。どう足掻いたって、唯の幼馴染にしかならない。
こうして後ろから見ていると、ジェラールとエルザは髪の色こそ対照的でも、とてもお似合いだ。
聞いた事はないけれど、二人は恋人同士なのだろうか。
仮に違うとしても、きっとそうなるのは時間の問題なのだろうと思う。エルザは、妹としての欲目抜きにしても美人で性格は少し厳しいけれど、正義感溢れる優しい人だ。女でもファンがいるくらいなのだから、男だったらきっともっと惹かれるんだろう。
二人はきっと恋人同士になる。そうしていつか、ジェラールを“兄”と呼ぶ日が来るのかもしれない。
そんな日を想像して、ジクリと醜い想いが胸を突く。そんな時がきて、自分は祝福できるのだろうか。
「ナツ、どうした?」
「……なんでもねー」
覗きこむジェラールの瞳に、今の自分を映してほしくなくて、ナツはまた俯いた。
「エルザ、今日は帰りどれくらいになりそうなんだ?」
「ああ、今日は生徒会もないから普通に」
話題を変えようと、いつも帰りが不定期なエルザに聞く。しかしエルザが答えようとした時、何故かジェラールが少し焦ったような顔をした。
「エルザ、今日は」
「!そうだったな。すまない今日は少し遅くなる」
「……そっか、ジェラールとどっか行くのか?」
そう聞くと二人は目配せをする。こんな時、疎外感を感じずにはいられない。知らない所で二人でいるという事実。気にしたくなんてないのに。
「少しな。買い物に付き合う約束をしていたんだ」
「わかった。じゃあ、夕飯先に食べてるな」
気持ちを誤魔化す様に軽く笑って「ホント仲いいよな」、とからかい交じりに言うと、二人して必死に否定してきた。照れることないのに。
「ナツー!」
ズキズキとした気持ちを抱えていたその時、少し向こうからルーシィの声が聞こえてきて、助かったと言わんばかりにナツは目を輝かせた。
「ルーシィ来たから俺行くな」
「ああ」
早くここから逃げ出したいという思いで、二人の視線を背中に受けながら駆けだした。
ジェラールと仲のいいエルザが羨ましかった。
でも、どうしたって自分はエルザに敵わない。ジェラールの隣に並んだって全然釣り合わないし。
昔はエルザに張り合うつもりで、それなりに好きだという気持ちを表した事もあったけど、今はそんなことをしても無駄なように思える。それくら二人は仲睦まじかった。学校のみんなもエルザとジェラールは付き合っているのだと言っている。今日のだって、きっとデートというものなのだろう。
こんな気持ち、早くなくなってしまえばいい。
そうしたら、こんな汚い気持ちも綺麗に消えてしまうのだろうから。
END
続きます。