ナツ♀小説
□間違いだらけの模範解答
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放課後、ショッピングモールへ買い物に来たジェラールとエルザは、小物店を物色していた。傍目から見れば、ジェラールがエルザに何かを選んでいる様に見える光景だったが、二人の胸に浮かんでいるのはいつだって一人の存在だった。
「これとか、ナツにどうだ?」
ジェラールがエルザに見せたのは、デコレーションされた可愛らしいストラップだった。それをじっと見つめたエルザは、ふむと唸る。
「いいんじゃないか?あの子は携帯は持ってないが、家の鍵にならつけられるだろう」
「そうか――いや、だが……」
「早くしろ。ナツが寂しがる」
先ほどからこの調子で一向にプレゼントが決まらない。夕飯を先に食べていると言っていたが、一人で食べるのは味気ないだろうし、ナツはあれで寂しがり屋なのだ。早く帰ってやりたいとエルザは気が急いていた。
喜んでもらえる物を上げたいと思っているのはわかる。しかしナツの性格上、心が籠っていれば何だって、それこそチロルチョコ一個だろうが徳用パックに詰められた飴玉一個でも喜ぶだろうに。
しかも近日中に誕生日だとかそういったイベントがある訳でもなく、ジェラールは時折こうしてナツへのプレゼントを買いたがるのだ。
「もう少し待ってくれ」
そう言うジェラールに、エルザは大きく溜息を吐いた。
これが生徒会長と言うのだから、世の中分からない。
学校やその他の事については何でもすんなり決められるというのに、ナツの事になると途端に優柔不断になる。それが不純な好意から来るのだということは、妹に対する好意を早々にカミングアウトされていたエルザには分かっていた。
「今度こそちゃんと渡せるのだろうな」
「ああ、ちゃんと渡すさ」
その台詞を何度聞いたことか。
ジェラールの自宅の棚には、今まで渡せなかったプレゼントが山のように積み上げられているのを知っている。しかもそれは年月を重ねるごとに、増えていた。そしてその殆どがエルザも選ぶのを手伝っていたものだから、包装されたその中身も知っている。
もし今選んでいる物もその中の一員になってしまうのなら、こうしている時間ははっきり言って無駄でしかない。
(私は、お前にならナツを渡してやってもいいと思っているんだぞ、ジェラール)
自他共に認めるシスコンのエルザが、ジェラールだけは認めている。幼いころから一途に想い続けているのを知っていたからだ。だというのに。
客が殆ど女性を占める店内に、ぽつんと一人商品を物色する男。これが中年の加齢臭漂う男ならば周囲の冷たい目を浴びる事になるのだろうが、年若い――しかも顔のいい青年とくれば嫌でも女子の注目を浴びる。現在進行形で店員含めた女性客が頬を染めながら、様子を窺っていることにジェラールが気づく事はない。
きっと頭の中はナツのことでいっぱいなのだろうから。
「さっさと選んで帰るぞ。そうしたら、一緒に夕飯でもどうだ?」
「いいのか?いきなりだろう」
「ナツも人数が多い方が喜ぶ」
三人で食事をする事はさして珍しいことではない。
ジェラールの両親は仕事で忙しくしている為、食事を一人で取ることが多かった。しかし、子供が一人で、というのが不憫だと思ったエルザとナツの両親がジェラールを家に招くようにしていたからだ。
思えば幼いころのジェラールは自宅にいるよりも、エルザとナツの家で過ごす方が長かった気がする。だから、エルザの中では本当の家族のような存在になっていた。
もし、ジェラールとナツが結ばれてくれれば本当の意味で家族になれるのだろう。そんな未来であればとても嬉しい。大切な二人が幸せになってくれるのをこの目で見れるならそれほどいい事はない。
そんな未来を想像して口元を緩ませる。妹の事を考えながら楽しそうに店内を物色しているジェラールを横目に、ナツが先に食事をとってしまわないよう連絡を入れた。
***
結局今回もプレゼントを渡さぬまま、ジェラールは自宅に帰ってしまった。まったく優柔不断もここまでくればヘタレでしかない。見送りながら無言の重圧を送れば、ジェラールは困ったように笑っていた。無駄な買い物に付き合わされたこっちの身にもなれと言いたかったが、ナツの手前口には出せなかった。
「ナツはジェラールをどう思っているんだ?」
食事を済ませてジェラールを見送った後、エルザはふと疑問に思っていた事を口にした。
「な、なんだよいきなり」
「いや、なんとなくな」
ジェラールの気持ちは知っていたが、肝心のナツの気持ちを知らずにいた。前々から聞きたいとは思っていたが、今の今まで口に出せずにいたのだ。
考え込むナツの姿を、エルザは何故か自分が告白の返事を待つかのように緊張していた。
「……兄ちゃんみたいな感じ、だな。つーか変な事聞くなよ」
「そうか、」
いつまでもアプローチすらできないジェラールと、そんな彼を兄の様に慕っているらしい妹。先はまだまだ長そうだと思う中、「変なエルザ」と言いながら苦笑したナツの顔が僅かに歪んでいた事にエルザは気づかなかった。
(大丈夫だから心配しないでくれよ。俺がジェラールに告白する事なんて、絶対にないんだから)
title/リビドー
END