短編2
□精一杯のかっこわるい背伸びで、世界一しあわせなキスをした
1ページ/1ページ
注意
※子スティング
※フェアリーテイルに入っている設定
コップの中になみなみと入ったオレンジジュースをものの数秒で飲みほすと、むくれながらカウンターに顎を乗せた。愛する桜色は仕事でギルドにはまだ来ていない。仕事に出かけたのは昨日なわけで、つまり一日もあの人に会えていないということになる。
ナツさんにとってはたった一日かもしれないけど、オレにとっては一日も、だ。
寂しいよナツさん。
「あらあら、そんな顔してどうしたの?スティング」
カウンターの向こうでミラさんが苦笑した。呆れられているのは分かっているけど、このやるせない感情をどう発散させればいいのか分からない。
「ナツさん、仕事行くって教えてくれなかったんだ」
「ああ、昨日スティングが来る前に慌てて出て行っちゃったから」
なるほどね、と納得したフリをしているけれど、きっと理由なんてとっくに気付いてたと思う。
ナツさんに関しては自分でも呆れるくらい感情を露わにしてしまう。
――こんなんだから駄目なのかな。
オレが子供っぽいから、ナツさんはいつまでたっても仕事に連れて行ってくれないし、気持ちを伝えても頭を撫でられるだけ。
「オレがナツさんを想うのと同じくらい、オレのこと好きになってほしいのになあ」
伝わらない気持ちがもどかしい。
確かに身長だって力だってまだまだナツさんには届かないけど、気持ちだけなら大人だと思うのに。
「何でつたわってくんないんだろう」
深い溜息をつきながら、飲みほしたグラスを傾けていじる。カラリと鳴った氷の向こうにはにっこりと笑うミラさんの顔が見えた。
「じゃあキスでもしちゃえばいいんじゃないかしら」
「ミラ姉!子供に何言ってるの!」
ミラさんの言葉にリサーナさんの裏返った声が入る。
「だって、好きって言葉じゃ通じないなら少し強引にしちゃうしかないじゃない」
「だからってこんな小さい子にっ」
リサーナさんとミラさんが言い合いをしている傍で、聞こえた言葉にどきりとした。
「きす」
呟いたその時、ダァン!と扉を開く豪快な音が聞こえて振り向くとそこには――
「ただいま〜!」
待ちわびた桜色が満面の笑みでそこにいた。
「スティング!ただいま!」
真っ先に駆け寄って来てくれた事に、オレの心がどれだけ歓喜したか。それに応えるように今できる最高の笑顔でおかえりを言う。
その間オレの頭の中はさっきのミラさんの言葉でいっぱいだった。
「ねぇナツさん、もっと近くに来て」
「ん?どうした」
オレは椅子の上に立って、近づいてきたナツさんの肩に両手を置くと自分の方へと引き寄せた。ナツさんの驚いた表情を見て、オレの顔には笑みが浮かぶ。傍から見るとかなり格好悪いだろうけど、イスに乗っても足りない背丈の分、目一杯背伸びをする。そしてずっと焦がれていた艶やかな唇を自分のもので塞いでやった。
んむ、とくぐもった声に、なんだか腹のあたりが疼いた気がする。すぐにナツさんに引き剥がされて何の感覚なのかよくわからなかった。
「おま、お前ッなんっ!」
顔が真っ赤になって舌がもつれるほど混乱しているのがすごく可愛らしくて、もう一度口付けた。
「好きだよ、ナツさん」
何時かその背も力も追い越して、ナツさんの心を奪えるくらい最高のキスを送ろう。
そうしたら、少しは想いが伝わってくれるかな。
真っ赤になってへたりこむ桜色の髪を見ながらオレは将来の自分の姿とその隣ではにかむナツさんの姿を思い描いて、顔がにやけてしまうのを止められなかった。
END