短編2

□ぬけがらの傍にいる
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※コミック未収録のネタバレあり
※死ネタ注意
















あの日、扉からおびただしい程のドラゴンがフィオーレに飛び立ち世界を焼き尽くした。

魔導士達が幾度となく戦いを挑んでは命を落としていく。
無防備に外を歩けばドラゴンに捕食され、人類は外を自由に歩くことさえできなかった。


毎日が死と隣り合わせ。


仲間達は次々と命を落とし、周りが恐怖と哀しみに染まる中その人だけは違った。
絶望に身を任せずドラゴンと戦い、滅竜魔導士の名のもとに仲間に危害を加えるドラゴンを屠っていくその姿は――まさに希望というに相応しい。


ずっと憧れていたその姿は周りにどんなに輝いて見えただろうか。

スティングの中の強い憧れはこんな世界の中でも恋情を芽生えさせた。
こんな絶望に満ちているからこそ、それは更に強い感情を生む。
どんなに強くともいつ命を落とすか分からない。そんな環境に生きているからこそ、躊躇することがどんなに無駄なことか分かっていた。だからこそ、躊躇わず彼にこの気持ちを打ち明けたのだ。


「オレも、お前の事が好きだ」


そう言ってほほ笑んでくれたことがどんなに幸せだったか。

こんな酷い世界で自分達は確かに幸せだった。

幸せ、だった。











ベッドの上で横たわっているナツはとても美しかった。

傷一つなくまるで眠っているようにすら見える。

愛しい人は結ばれて間もなくしてこの世から去った。この腕の中で。


「今日は沢山ドラゴンを始末したよ……」


スティングのドラゴンフォースは皮肉なことに目の前で己を庇って引き裂かれたナツを見て、完全に目覚めた。

今や人類の希望だ。元々その位置はナツのものだったというのに。


「今日も綺麗だ。ナツさん」


そう言って滑らかな頬に触れる。

酷いありさまだったナツの身体は、ウェンディやシェリアの力により治癒されたが、一度止まった心臓が動く事はなかった。埋葬するのはスティングが拒み、ウルティアの時のアークによって身体の時を止め腐食を防いだ。時のアークは生きている者には効かない。それこそがナツが死んだと言う現実を皆につきつけた。


「ずっと傍にいてね」


答えないナツに、愛おしげに口付ける。


ドラゴンが現れて7年。
その間に殆どの人間が死に絶え、絶滅に瀕していた。ドラゴンの数は増える一方。それに対して撃退した数は生まれてくる数に比べて酷く少ない。最早人間の数よりもドラゴンの方が上回っているだろう。このアースランドは既にドラゴンに支配されていた。


「愛してるよ」


きっとすぐに本当の意味でナツの所に行ける。
その時の事を思い浮かべてうっそりと笑み、冷たい頬に顔を寄せた。

壊れかけたココロは、愛する人のぬけがらに寄り添う。

決して満たされることのないぬけがらは、ただただ綺麗に横たわっていた。












END





このあとローグが壊れしまったスティングを殺して、力を奪って、時を遡ったり。
ローグも壊れかけてて誰かに操られてたりしてね。そんな妄想でした。






title by ヨルグのために



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