FT短編2

□ラストバレンタイン
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まだまだ肌寒い季節――しかしそんな寒さに反して世間ではある熱いイベントが近づいていた。甘い甘い恋のイベント――バレンタインデーである。

ナツはテーブルに頬杖を突きながら目を伏せていた。

いつものように騒ぎもせず、ただ座ってそこにいるだけ。その向かいの席にはリサーナの姿があった。

彼女がエドラスから帰還して以来、二人はよく一緒にいる。昔に戻ったような懐かしい光景。離れていた期間を感じさせない二人の様子にギルドの者たちが頬を緩ませることも多々あった。

いつも楽しげにしている二人だったが、この時期浮ついた空気が流れているギルドとは反対にナツは考え込むように黙りこくっている。変だと思いながら各自耳をそばだてているが、二人の会話の内容は聞きとれないでいた。


周辺に会話が届かないのも無理はない。二人は会話などしていないのだから。


リサーナは黙ったままのナツを心配の色を滲ませながら覗きこんだ。

随分前に見た事のある表情。それだけで何の事を考えているのか分かる。それに、今この場にはその原因になっている人物がいないから――間違いなかった。ナツがこんな表情をするのは、今も昔も“彼”がいないときだけだったから。


「ナツ、何考えてるの?」


本当は聞かなくても分かるし、ナツも言わなくても自分が分かっている事を知っている。
けれど話させたかった。そうじゃないとナツはどんどん深みに嵌ってしまう。普段は悩みにとらわれることのないナツなのに、“彼”の事になるとその鎖にがんじがらめになって身動きが取れなくなる。


「――オレ、もう終わりにする」


ナツらしからぬ静かな声。そしてその言葉の意味する事を察したリサーナは、大きく目を見開いた。







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