FT短編2
□ラストバレンタイン4
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ナツは笑っているのが一番だと思う。
そんなナツが大好き。
ミラねぇや、エルフにぃとは別な所で、一番大切な人。
だから幸せになってほしいと思うのは当然でしょう?
「リサーナ」
家に訪ねてきたナツは泣いてはいなかったけれど、少し悲しげに笑っていた。
「おかえりナツ」
リサーナは送りだした時と同じように、笑ってナツを出迎えた。
家に上げる間もなく、ナツが「全部終わったぞ」と切り出して今日の事を話してくれた。話が飛んでいる部分があるから、所々端折っているところもあるだろうけど。
「じゃあ、グレイもナツのことが好きって言ったんだ」
「おう、薬のせいだって分かってるんだけどな」
少し照れたような顔で言うナツに、ああ可愛いなあ、と思う。ナツにこんなにも想われているグレイが少し羨ましい。
「で、明日ギルドで待ってるって、バカだよなー明日にはもう忘れてるってーの」
顔は笑っているけれどナツの目は悲しそうだった。本当は泣きだしたいくらいな筈なのに、その大きな瞳から溢れるものは何もない。昔は泣き虫だったのに、とそんな所で時の経過を感じる。グレイの前では泣けるのかな、なんて思うとやっぱり少し妬いてしまうかもしれない。
リサーナはナツの言葉に頷きながら、目を合わせて悪戯っぽく笑った。
「うんうん――
じゃあ、明日が楽しみね!」
「そうそう、明日が――……って、え?」
リサーナの言葉を繰り返そうとし、ピタリと止まる。同時に時間まで止まってしまったと勘違いしてしまう程の沈黙が流れた。
「は……?え?明日にはグレイは何も覚えてないんだろ?そーいう薬だって……」
ナツは目を白黒させながら言葉の端々に困惑を滲ませていた。きっと彼の思考はぐちゃぐちゃになっているだろう。そんな様子が容易に見てとれて、リサーナは目を細めた。
「ナツ、嘘も方便っていうでしょ?」
「ぅえ?えぇ?」
「だってあれ、ただのお酒だもん!」
「う、えぇええ!?」
途端にぼんっ、とナツの顔が真っ赤に染まる。
「え、ちょ、マジか!?マジなのか!?」
「えへっ」
あわててるなぁと他人事のように思いながらリサーナは憎らしいまでの笑顔を浮かべる。その反応は今のナツには死刑宣告も同然だった。
「うわああああ!おれ、俺どうしよう!?」
ナツは赤くなるばかりの頬を両手で押さえつけ悶絶していた。余程恥ずかしい事でも言ったのだろうか。リサーナの知る所ではないが、可愛い反応に思わず笑みがこぼれる。
「もうナツは可愛いなぁ、ミラねぇに見せてあげたい」
「か、からかうなよ、あああ明日どうしようっ」
会いたいのに会いたくねぇ!声高らかに叫ぶナツに、リサーナは心の中で呟いた。
(おめでとうナツ、幸せになってね!)