FT短編2

□ラストバレンタイン5
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―――翌日


グレイはギルドに行く途中にある民家の壁に凭れ掛かりながらナツが来るのを待っていた。


昨日リサーナから、ナツが渡したいものがあるらしいと聞きギルドの裏手で待っていた時と同等の期待と高揚感。


『これ、やる!』


昨日の事を思い出しては頬がゆるむのを止められない。頬を赤く染めて、恥ずかしそうに伏せられた瞳には不安の色が見て取れた。それがあんまり可愛くて、その時のグレイは心臓がどうにかなってしまいそうなくらいにきゅんきゅんしていた。

我ながら気持ち悪い。

しかし、長年想い続けていた相手から昨日という日にチョコレートを貰えたのだ。バレンタインデーが訪れるたびにどれだけナツからチョコを贈られる夢を見続けた事か――昨日の事が全て夢なのではないかと疑ったくらいだ。積年の思いが見事に実ったというのだから、喜ぶなというほうが無理だろう。


(おっせぇなー……)


早く来いよ、とグレイは一人呟いた。








チョコレートに薬がなんだのと、グレイにとってはどうでもいい話しだ。

そもそも薬の影響云々の前に、ナツに骨抜きにされているのだから。仮に効いていたとしてもそんなものを使った所で思いが増すばかりで、グレイにとっては願ったりかなったりだ。


(それに――うれしいじゃねぇか)


そんなもの使う程、好きだと思ってくれている。


(そういうことだろう?それなのにあいつときたら)


どれだけ好きだと伝えても、薬の所為だと思い込んで信じようとしない。

頑なと言うか――いつもは強気で前向きなのに、こう言った面ではどうして弱気で後ろ向きなのだか。

本当は昨日にでも無理やり納得させてモノにしても良かったが、そういうのは好きじゃない。この想いを薬の所為ではないのだと証明したかった。もうずっと待ってたのだ、一日待つぐらい何てことはない。


まぁ――流石にもう手が届く所まで近づいた所で手を引くのは、相当にきつかったのだが。






「おっせーよ、いつまで待たせンだ」


ようやく視界に入った桜色。何故だかとぼとぼと歩いてくるナツは、声を聞いた途端びくりと肩を震わせ、グレイを見た瞬間遠目に見て分かるほど顔が紅潮していた。


「うるせー!何待ってんだよ!あ、ありえねぇだろッ」

「昨日、待ってるって言ったろ」


ぶっきらぼうな言い方は明らかに照れ隠しと分かる。緩みそうになる口元を引き締めて顔を覗きこむと、慌てて腕で顔を隠し背けた。


「覚えてるよそんくらい……ちくしょう、ホント……なんで、お前、覚えてんだよッ」

「ついでにてめぇの熱烈な告白もきちんと覚えてんぜ」

「うああああ!!それ言うなっ忘れろ!記憶から抹消しろ!!」


何も聞きたくないと言わんばかりに耳を塞ぐ。

グレイはその手を取って、強引に引き寄せた。ナツの顔をちゃんとみたかったのだ。

今日こそはちゃんと伝えなくてはいけないのだから。


「なぁ、こっち見ろよ。目ぇ合わせてちゃんと言いてぇことがあるんだ」


手を掴んだままそう言えば、恐る恐る琥珀色の瞳がグレイを映した。


「んだよ……」


そこに映るグレイは酷く愛おしい者を見る様な、そんな優しい顔をして―――





「      」





囁いた言葉は、ちゃんと届いただろうか。





「おう……」





戸惑う様な、けれど喜びを隠しきれないでいるその笑顔は、どんな菓子よりも甘く甘く感じられた。






















ハッピーバレンタイン!そしてホワイトデーに続く!




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