FT短編2

□オタグレイ4
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眉目秀麗、成績優秀、スポーツ万能というグレイは多くの才能に恵まれ、悩みだと皆無に等しかった。自分でもそれを自覚しているが、けしてそれらをひけらかすことはしない。

ただ唯一の悩みとしては、毎日最愛の弟にゴキブリを見るような目で見られていることくらいだろうか。だがそれも仕方ないナツは照れ屋だからな、と兄としての広い心を見せつけている。

上記の事もあり、グレイは自分をとてもいい兄だと思っている。ナツのことだって目に入れても痛くないくらい可愛がっているし、この間だって久しぶりに一緒に風呂に入ろうと思い、ナツの入浴中に浴室のドアを開けたら絶叫され近隣の住人が訪ねてきたくらいだ。きっと叫びたくなるほど嬉しかったんだろう可愛い奴め。

カチカチとマウスをクリックすると、画面では桜色の髪の子がふわりと嬉しそうに笑った。


「あーなっちゃんマジかわゆす」


ギャルゲーのBGMがおしとやかな音量で流れる部屋に、グレイの独り言が響き渡る。今日は愛しの休日。一日中パソコンを見つめていられる楽園の様な日だ。なっちゃんは本当に弟のナツとそっくりな外見をしていて、絶賛ツンデレのツン全快な今のナツとは違い、素直でいつもおにーちゃんvと甘えてくるのだ。

そんななっちゃんのグッズが部屋には溢れかえる。休日になっちゃんが沢山いる部屋に閉じこもるなど至福以外のなにものでもない。

そんな至福の時間を堪能していた時、不意にドアをノックする音が聞こえた。母だろうか、しかしついさっき買い物に出た筈だ。パソコンのウィンドウを閉じると、グレイはゆっくりドアを開いた。そこにいたのは想定外の人物で。


「ナツ、珍しいなどうした?」


内心驚いたが何とか平静を保ち、ドアに寄り掛かる。

恥ずかしがりやなナツが自らグレイの部屋を訪れるなんて、どれくらいぶりだろうか。


「……にぃちゃん」


ナツらしからぬか細い声――いや、それ以上にナツが呟いた言葉にグレイは目を見開いた。すこし下にある桜色の髪が揺れ、表情が見えたのも束の間身体に衝撃が走った。


「お、わ!?」


密着する身体と身体。久しぶりに感じるナツの温もり。

グレイにとって夢にまで見た光景が、いまこうして現実になっている。


(は、鼻血でそ)


鼻の辺りを身に覚えのある感覚が通るが、ここは兄としての威厳を保つべき所である。何とか、堪えナツの肩を抱きとめ、顔を覗こうとするが、少しの隙間も埋めたいのかナツはぎゅうぎゅうと背中に回した手に力を込めた。


「にぃちゃん、にぃちゃんっ……」


胸に甘えたにすり寄るナツは最強に可愛すぎた。


「わかんねぇけど……か、らだあつくて、へん」

「え、えぇっ?」


暑い暑いと目を潤ませながら――ナツは自らの衣服のボタンをもたつきながらも上から外していく。一つずつ外されていくボタン、それに比例して首から鎖骨までのライン…滑らかな鎖骨から胸元が徐々に露わになっていくその光景にグレイは喉を鳴らした。

いったいこの状況はどういったことなのか。混乱極まる今の思考では追いつかない。いや、まて、ナツの身体は熱く火照り、この幼児のような口調――恐らく熱で朦朧としているのだ。

兄として、ここは部屋に寝かせて看病をするべき所である。

しかし――しかし、だ。

これはあまりにもオイシスギル状況ではないか?天使と悪魔、兄と男。葛藤がせめぎ合い渦を巻いている。


(燃えろ俺の小宇宙!ギャルゲで鍛えた脳から最良の選択肢を捻り出すんだッ!!)


今思いつく限りであらゆる選択肢が脳内巡っていた。


1.そんなにあちぃなら脱がしてやんよ!ベッドへ連れて行き組み敷く

2.大丈夫か?ベッドに寝かせて看病する

3.暑いって言われてもよ。そのまま追い返す
 

3番はまずない。瞬時に却下だ。とすると選ぶべきは1番か2番。ここは空気をよんで1番にするべきだ。それはゲーム然り漫画然りアニメ然りで主人公にここはいっちまえよ、某絵版ではスクロールバー仕事しろと思われるくらいのもどかしさだ。しかしいい兄として、大事な弟の為にすべきは2番。


(こんなおいしすぎる状況見逃せねぇだろ……!)


グレイだって男だ。

弟を兄弟としても――ぶっちゃけ性的対象として愛している相手のこんなあられもない姿を見て、理性に歯止めがかけられる奴の顔が知りたい。


→1.そんなにあちぃなら脱がしてやんよ!ベッドへ連れて行き組み敷く
 
2.大丈夫か?ベッドに寝かせて看病する
 
3.暑いって言われてもよ。そのまま追い返す


グレイの選択肢は本能に素直だった。このパターンはナツ相手ならバッドエンドなのは分かっている。だが理性よりも本能が圧倒的に上回ってしまった。

ナツを部屋の中へと連れ込むとベッドへ寝かせ、そのままナツの上に馬乗りになる。頬に手を滑らせると滑らかな感触と共にいつもより熱いだろう体温が伝わってくる。


「にいちゃん、てぇつめたい」


うっとりとグレイの手を取り、気持ちよさそうに微笑むナツ。


「ぅ、ナツ……!」


可愛すぎる!
ここ数年ぶりのナツの素直でしおらしい態度。待ち望んだとしても到底叶わないだろう状況をギャルゲーに委ねてどれくらいの歳月が経ったことか!

理性崩壊。

目を引く色づいた唇に、本能のまま重ね合わせた。


「ん、ぅっ」


熱があるせいか弱々しく、しかし抵抗を見せないナツに興奮が止まらない。柔らかな唇を啄ばみ重ね合わせ、うっすらと開いた口から舌を侵入させる。


「ぐれ、にいちゃ……」


苦しそうにしながら、潤んだ琥珀の瞳が見つめてくる。堪らず再び唇を重ね、思うがままに深く繋がった。ナツの口内は熱く、絡む舌が性感を刺激し、慣れない行為からか息苦しそうに吐息を漏らす姿にグレイは熱く滾る己を感じた。唇を離し、そろりと手をシャツの隙間から腹部へ。先ほど自らが外して露わになった首筋へ舌を這わせ――ふと、違和感に気付く。

触れてもピクリとも反応しないこの状況。もしやと思い恐る恐る顔を上げた。


「くぅ」

「……マジか」


こてん、とグレイの枕に頭を預けたナツは―――安らかなる寝息を立てていた。

無垢なナツの寝顔。熱に苦しみながらも尚天使の如きそれに、反応させてしまっている下半身。だって男の子だもんなんて言い訳は通用するはずもない。突如として激しい後悔が押し寄せ、ナツの首筋に顔を埋めながら再び理性と本能のせめぎ合いに思考を呑まれ――数分後、甲斐甲斐しくナツの看病をする兄の姿があったことは言うまでもない。












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