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□喧嘩の後には
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(あうぅ〜〜、どうしてこんな大事なときに…)
青学一年、竜崎桜乃。
今日は大事な決心をして、ここまで来た。
それなのに。
「ねえ、一人なんでしょ?いいじゃん、遊びにいこうよ〜」
「俺らが奢るし、絶対楽しいって!」
「あ、あの…」
駅から、氷帝学園までの道。
桜乃は2人の若者に捕まっていた。
所謂、ナンパをされてたわけであるのだが。
桜乃は氷帝学園に行く途中だった。
恋人の…跡部に会うために。
実は数日前、桜乃と跡部は些細なすれ違いによって喧嘩をしてしまったのだ。
数日間…跡部との連絡は一切なく、その間桜乃はずっと後悔と不安で心を占められていた。
だけど桜乃は、この状態のまま終わってしまうのは嫌だった。
(だから…今日、ちゃんと謝ろうって…会いに行こうって決めたのに)
「わ、私…行くところが」
「そんなこと言って〜」
「ほんとは暇なんでしょ?」
よりによってかなりしつこい人たちに捕まってしまったらしい。
何分経過しただろうか、ずっとこのやりとりを繰り返している。
(もう…今から行っても跡部さん帰っちゃってるかも…)
そう思うと桜乃は悲しくなって、涙がじわりと滲んできた。
「あれ?泣いてるの?」
「俺たちが慰めてあげるよ〜?」
一体誰のせいで泣いているのかわかっていないのか、若者たちは桜乃の肩を抱いて無理やり引き寄せようとした。
「…やっ…!」
桜乃が短い悲鳴を上げた瞬間、桜乃の身体は強い力によって引き戻される。
そのまま、力の主に抱き寄せられ、桜乃の顔は胸にうずまるカタチになった。
「っ! な、なんだてめえっ」
「あぁん?てめぇらこそ、誰の許可を得てコイツに触れてんだ?」
(…!…あ…)
力強い腕、服からわかる香水の匂い、この声…
すべて、桜乃がよく知る…愛しい人のそれと同じだった。
顔を、見なくてもわかる。
(跡部さん…)
滲んでいた涙がさらに溢れ、桜乃はその胸にぎゅう…としがみついた。
跡部もそれに気付いて、桜乃を抱いていた腕をさらに強くする。
そして跡部は鋭くナンパ男たちを睨んだ。
「…てめぇら、よく覚えておけ」
低く響いた声に、ナンパ男たちはびくっとする。
「コイツは俺の女だ。手を出したらただじゃ済ませねえ」
跡部の鋭い視線、低い声、そして何か絶対的な力を感じさせる周りのオーラ。
ナンパ男たちは威勢を保つことができず、怯えを隠しきれずに立ちすくむ。
「わかったなら、今すぐ失せろ」
跡部がそう言うと、2人のナンパ男たちは、舌打ちをして一目散に逃げ出した。
舌打ちをしたのは、彼らの最後の意地だったのかもしれない。
ずっと跡部の胸でそのやりとりを聞いていた桜乃は、彼らが去ってからもすぐには離れようとしなかった。
跡部ももちろん桜乃をはなさずにいた。
「…跡部さん…」
「…なんだ?」
「助けてくれて…ありがとうございました」
「…フン、ったくお前は…焦らせるんじゃねえよ」
そう言って跡部は腕を緩め、桜乃を見る。
「電話しても出ねえし」
「す、すみません…今日たまたま家に携帯を忘れて…」
「とりあえず向かおうとして車を飛ばしてたら、途中の道で変なやつらに絡まれているお前を見つけるしな。」
「そ、そうだったんですか…?」
すみません、ともう一度謝ると、跡部は優しく桜乃の頭を撫でた。
「無事で良かったけどな」
「…っ」
優しい跡部に桜乃は再び涙を滲ませた。
数日前喧嘩をしてから…ついさっきまでずっと不安だったものが、溶けて消えていく気がしていた。
「跡部さん…」
「あん?」
「まだ…私のこと恋人だと思っていてくれたんですね…」
──コイツは俺の女だ
あのナンパ男たちに向かって跡部が言った台詞。
(嬉しかった…)
桜乃の耳にずっと残っている。
「…アホか。当たり前だろ」
呆れた口調とは反対に、跡部の表情は優しかった。
「お前はずっと、俺の女だ」
放したりしないさ。
…何があっても、絶対に。
静かに、だけど強い口調で宣言した跡部に、桜乃は涙を浮かべて、とても幸せそうに微笑んだ。
…跡部さん、この間はごめんなさい。
ああ、俺も…悪かったな。
2人が素直に、微笑みながらそう交わしたのは、それから少しだけ後のこと。
【喧嘩の後には】
(会えなかった分…今からたっぷり愛してやるから、覚悟しろよ?)(えっ!?)
end
喧嘩シチュ跡桜編でした。
アンケートでのご意見を参考に書かせていただきました!
ご意見ありがとうございました(^^)