6
□ライバル
2ページ/3ページ
幸村や柳だけでなく、真田もまた桜乃のことを特別に気に入っているのは部員たちにも知れ渡っているほど明らかなことだった。
だが真田の性格上、二人のように積極的にアプローチをかけることができずにいた。
真田自身もこのような想いを抱くことが初めてであり、慣れない感情にまだ戸惑うことが多い。
たとえば幸村や柳に対する嫉妬という感情も、自覚さえしてるもののどうしたらいいのかはわからなかった。
「情けない。鍛練が足らぬな…」
…夜、真田は一人壁打ち場で自主練をしていた。
煩悩を振り払い、自分をなすべきことをするのだ。
迷い悩むことなど、今の俺には邪魔なもの。
そう、彼女を思う気持ちも…。
「お疲れ様です、真田副部長」
「…! 竜崎…」
いつのまにか後ろにいたらしい桜乃が、真田にタオルを渡す。
真田は驚きつつも素直に桜乃の優しさに感謝して、ありがとうと言ってタオルを受け取った。
「窓から真田副部長が外に出るのが見えて…来ちゃいました」
「…そうだったのか」
「はい。本当に真田副部長はいつも頑張っていて…すごいです」
そう言って桜乃が微笑むと、真田の胸がキュンと締まった。
トクン、トクンと鼓動が速くなる。
結局、この感情からは逃れられない…。
この少女を愛しいと思う気持ちからは。
真田は真剣な目で桜乃を見つめた。
「…竜崎、俺は…」
「抜け駆けかい?真田」
「…!!」
ふと声をかけられて、ハッと我に返り目を遣ると、桜乃の後ろに幸村と柳が並んで立っていた。
二人は桜乃と真田にゆっくりと歩み寄ってくる。
「ぬ、抜け駆けなど…!俺は別に…」
「抜け駆けだろう?ねえ、連二?」
「そうだな。こんな時間に一人黙って自主練習など、抜け駆けもいいところだ。弦一郎」
「…!? テニスのことか…」
「フフ。他に、何のことだと思ったんだい?」
「い、いや…」
「抜け駆けだなんて、皆さんは仲間なのにライバルでもあるんですねっ」
言葉を濁した真田の横で、桜乃が無邪気な笑顔を三人に向ける。
幸村と柳はそんな桜乃に微笑みを返した。
「うん。俺たちは仲間であり親友であり、…ライバルなんだ。」
「そういうことだ。テニスでも、それ以外でも」
「? それ以外?」
「……そうだな」
桜乃はわかってなかったが、真田は二人の言うことを理解して…そして頷いて肯定をした。
その瞬間、桜乃を中心にした三人をとりまく空気が確かに変わった。
まさか同じ相手に恋をするだなんて、誰も予想していなかったことだろう。
しかし全員が、ここにいる桜乃という少女に心を奪われてしまったのは事実。
だが誰も身を引こうとは考えていなかった。
互いを認め合っている彼らだからこそ、全力で挑もうと思えるのだろう。
テニスにも、…恋にも。
【ライバル】
(やっと腹をくくったみたいだね、真田)(勝負はこれから、だな)(……ああ)
end
あとがき→