□幸せのメモリアル
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「あっ…!」


声をあげた桜乃には構わずにリビングに入っていく。
テーブルには確かに、少しいびつな形をしたケーキと、少々焦げているおかずが並べられていた。


「す、すみませんっ…!ケーキもおかずも今から買ってきて別のものを…」

「なんで?俺はこれ、食べたいけど」

「えっ!!だって…こんな」

「桜乃が俺のために作ってくれたんやろ?せやったら、これがいい」

「光さん…」

ぽん、ぽん、と頭を撫でてやると桜乃は瞳を潤ませて俺を見つめた。


「ごめんなさい…いつもはこんな失敗しないのに…今日に限って…」

「まあ、誰でも失敗くらいするやろ?」

「でも!素敵なお誕生日にしたかったです…。私のお誕生日には光さんがプロポーズしてくれて…忘れられない最高の誕生日になったから…私も結婚して最初の光さんのお誕生日を素敵な日にしたかった…」

「…桜乃」


今年の桜乃の誕生日に、俺は桜乃にプロポーズをした。
イエスの返事をもらえたとき、あの日は俺にとっても最高の日になった。
あの日のことを大事に思ってくれている、桜乃の気持ちが嬉しかった。


「ある意味、忘れられへんで」


「え?」

「結婚して初めての誕生日。めったに失敗なんかしない俺の可愛い奥さんが、珍しく可愛い失敗をした日やし」

「!! そ、そんな覚えられ方嫌です〜!!」

「ははっ、嘘やて。…ただ単純に、桜乃が俺のことを想っていろいろ用意してくれたことが嬉しいから…こんな最高な日を忘れるわけないやろ」

「! 光さん…」


誕生日に家に帰れば、俺のことを心から想って祝ってくれる奥さんがいる。
なんて幸せなことだろう。
朝の「早く帰って来てくださいね」という言葉や、帰り道の家に着くまでの高揚感。
なにもかも初めてで、きっとずっと忘れられない。


「…あとは、可愛い奥さんが笑ってくれたら文句なしなんやけど」

「! あ…っ」

「なあ、笑って」


腰を抱いて上から見つめると桜乃は頬を少し赤く染めて俺を見つめ返す。
やがて桜乃はそっと口を開いた。

「光さん…お誕生日おめでとうございます。私と一緒にいてくれてありがとう…大好きです」

「! 桜乃…」


言ってから、照れたようににっこり笑う桜乃。
その笑顔があまりに綺麗やったから、俺は少しの間見とれてしまった。


「…俺の方こそ、ありがとうな。…愛してるで」


…桜乃と出逢えて、一緒になれて、本当に良かった。

胸いっぱいに広がる想いを感じながら、俺はそっと桜乃の唇に口付けを落とした。



【幸せのメモリアル】

(君と過ごす一瞬一秒が、俺の心に残っていく)



end
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