□冬空の下の恋模様・後編
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U-17の選抜合宿。一般学生から募った公式マネージャーが追加されて10日が経った。
学校が休みである冬休みのあいだ、二週間だけのマネージャーたちは、あと数日で役目を終えて合宿を去ることになる。


(あっという間、だったな…)


マネージャーの一人である竜崎桜乃は、この10日間のことを振り返っていた。

マネージャー初日に、早速迷った桜乃を助けたのは、憧れていた越前リョーマだった。

それから忙しいマネージャーの仕事の合間に、リョーマとは幾度となく関わっていた。
話しかけたこともあれば、こちらから声をかけたこともあった。
選手の中では、間違いなく一番関わったのがリョーマだった。


だけど、そんな日々ももうすぐ終わってしまう。


(そもそもリョーマくんのような凄い人と、私じゃあ住む世界が違うんだけど…)

夜に自主練習をしているリョーマを見かけたとき、桜乃は我慢できずに近くに見に行った。
…本来なら、決まっている練習を終えた後…夜に、マネージャーが選手に会いにいくなどしてはならないことだった。
…だけど止められなかった。
…近くで、大好きなあのテニスを見たかった。

(…それだけ、だったかな)

もっと、邪な気持ちもあった。

(…リョーマくんと、話したい…一緒にいたいって思ったんだ…)

仕事の合間の僅かな時間ですら、リョーマとの時間はすべて大切な思い出になった。

(…もうすぐ会えなくなるのに…)


学校が同じなわけでもないリョーマと桜乃。そもそも、リョーマは全国大会後にはアメリカに拠点を置いていたという。
合宿が終わったあとは、日本にすらいないかもしれない。


(憧れているだけなら、良かったのに…)

どんなに遠くでも、会えなくても、憧れているときだったらこんな気持ちにならなかっただろう。リョーマの活躍を知れれば、それで良かった。
でも、今は…。


「何してんの、アンタ。ぼーっとして」

「! リョーマくん…」


午前中の練習メニューが終わり、昼食のために選手やマネージャーたちが室内に引き上げている中、ぼーっと立ち止まっていた桜乃に声をかけたのはリョーマだった。
間近でリョーマに覗きこまれて、桜乃はドキッと胸を鳴らす。



「な、なんでもないの」

「ふーん…じゃあ早く中行こうよ。昼食でしょ?」

「う、うん」


今は、こんなに近い距離を、知ってしまったから…。
あと少しで、マネージャー期間も終わって。
そうしたらもう、リョーマと会えなくなる…。
そのことを考えると、どうしても胸が痛くなった。


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