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□セーフorアウト
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柳生と仁王が練習に戻った一方で、丸井とジャッカルは共に練習をしていた。
「何も、変わんないよなあ?」
唐突に言葉を発する相棒に、ジャッカルは視線を向ける。
「何がだ?」
「いや、竜崎のこと。幸村の彼女でも俺らにとっては友人であることは変わりないんだし?」
「まあ、そうだろうが…」
「要は下心がなきゃいいんだろぃ?今までどーりお菓子ねだるくらいは…」
「…お菓子をねだるのは下心じゃないのかよ」
「あっ竜崎じゃん。おーい、竜崎〜」
丸井はジャッカルのもっともな意見を軽く無視して、部員たちの練習を見てまわっている桜乃を見つけ声をかけた。
「噂をすれば影、だな」
ジャッカルはとりあえず丸井に無視されたことには突っ込まず、桜乃の方に視線を向けた。
「あ、丸井さん、桑原さん」
丸井の呼ぶ声に気付き、桜乃は二人の方に小走りで駆け寄ってきた。
「んー、竜崎って髪長いよな〜」
自分たちのもとに駆け寄る桜乃の姿を見た丸井は、走ると大きく揺れるそのおさげに意識を向けた。
「何だよ今さら」
「まあ、そーなんだけどよ。」
そんなこと言ってる間に、彼女は二人の前に来ていた。
「こんにちは、練習お疲れ様です」
「ああ」
「なあ、竜崎」
「何ですか?丸井さん」
「その髪さあ、いつから伸ばしてんの?」
そう言ってついさっき生まれた疑問を目の前の少女に投げ掛け、何とはなしにその長いおさげを手にとった。
そうですね…もう随分前から伸ばしてますよ〜」
「だろうな、こんだけ長けりゃ」
桜乃は丸井の問いかけに笑顔で答えていて、丸井はまだ手でおさげを弄んでいた。
「しかしほんっとに長い………っ!!」
「…っ!!」
丸井、ジャッカルは背後からものすごい圧力を感じ、動きが止まる。
丸井がさっきまで手で弄んでいたおさげも、手から離れて下に垂れた。
「あ、精市さん」
桜乃は二人の後ろに目を向ける。
(ゆ、幸村…!?いつから後ろに…)
(やべえ…怖くて振り向けねえ…っ)
丸井とジャッカルは冷や汗をかきながら未だ動けずに凄まじい威圧を背中に感じていた。
「…ふふ。ブン太、最近バレンタインにもらったチョコを勢いよく食べてたよね?」
「…あ、ああ」
幸村はあくまで笑顔をくずさずに、丸井に話しかける。
もっとも、丸井とジャッカルには、幸村の顔は見えないが…。
「ランニングでもして少し体を締めてきたら?」
「お、おう!今すぐ行ってくるぜ!!」
「あ、待て!俺も付き合うっ」
そう言って、丸井とジャッカルはすぐさまその場を走り去って行った。
…結局一度も後ろを振り向かずに。
(やべー、マジで焦った。髪を触るのはアウトだったか)
(頼むから気をつけてくれ。…それで俺を巻き込まないでくれ。)
二人は小声でそんな会話を交わしながら、幸村の威圧から逃れるべく走っていた。
「お二人とも頑張ってますね」
「ふふ。そうだね」
当然、丸井とジャッカルの恐怖も、自分の恋人から放たれていた凄まじい圧力にも一切気付いていない桜乃は、お互いに穏やかに微笑みながら幸村とそんな会話を交わしていた。
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