□My heart will go on.
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「日が暮れてきたなあ…」



(…そろそろ部屋に戻った方がいいかも。)


ずっとデッキで海を眺めていた桜乃は、船内に戻ろうと体の向きを変えた。


そのとき、桜乃の瞳がとらえたのは、ちょうどデッキに出てきた一人の青年。



そしてその青年も同じように、桜乃の姿を瞳に映していた。



…それはまるで時が止まったかのように。


お互いが相手を、しばらく見つめあっていた。





(なんだ…?この感覚…)


跡部は一目見て、そのまま目が離せなくなってしまった。


黒髪を海風になびかせている、一人の可憐な少女に。


(運命…?)



そんな言葉が跡部の頭の中に浮かんだ。



…跡部は、目の前の少女に、


一瞬にして恋に落ちた。



ゆっくり、ゆっくりと跡部は少女に近づいていく。




相手が動き出したことに桜乃はハッとする。

(へ、部屋に戻らないと…っ)

ドクン、ドクンと大きく鳴っている鼓動。
訳のわからないまま、桜乃は跡部の横をすり抜けて船内に入ろうとした。



「…っ!…待て!」

「…え…っ」



桜乃は跡部に腕をつかまれて止められる。

桜乃は驚いて見上げると、すぐ近くに跡部の顔があった。


(…わ…綺麗…)


桜乃は再び跡部から目が離せなくなってしまった。

さっきよりも近い距離で見つめ合う二人。

しばらくして、跡部は言葉を発した。


「…お前、名前は?」

「さ、桜乃です…、竜崎…桜乃」

「桜乃…か。俺は跡部…跡部景吾だ」

「跡部、さん…」

「…桜乃。夜もここに来い」

「え…?」

「待ってる」



そう言って跡部は桜乃の腕を離し、船頭の方へ歩いていく。

桜乃は混乱しながら、スミレが待つ部屋に戻った。




・・・・・・




ディナーが終わった後…、桜乃は部屋のソファーにいた。


「…どうしよう」


───『夜もここに来い』


桜乃はあの後、ディナーの間もずっと、跡部のことで頭がいっぱいだった。



「私に言ってたんだよね…?」


でも、どうして私に?

跡部…跡部景吾さん。
あのときは気付かなかったけれど…跡部ってあの有名な、跡部財閥の…?
ディナーで見かけたときも、使用人みたいな人を連れていたし。

可能性は充分にあり得るよね…、むしろ私みたいな一般人がいるほうが珍しいんだから。


「行っても…いいのかな…」



住む世界が違う人。
関わってしまっていいのか…、わからない。

…けれど。



───『待ってる』



「……」


もう一度…

あの人に会いたい。



桜乃は立ち上げり、部屋を出てデッキに向かった。





・・・




桜乃がデッキに出ると、夕方この場所で出会ったあの青年が船頭でじっと海を眺めていた。


「あ…っ」


桜乃が話しかけるべきか否か迷って、漏れてしまった声に、跡部は気付いて振り返った。


「…来たな、桜乃。待っていたぜ」

「……」

「来いよ、こっちに」

「…は、はい…」



桜乃は、ゆっくりと跡部に近づいて行く。

手を伸ばせば触れられそうなところまで近づくと、桜乃は跡部に腕を引かれた。


「…きゃっ…」


そのまま跡部は桜乃を抱き締める。


「あ、あの…っ、跡部さ…」

「しばらく、こうしていたい。いいだろう?」

「…!…ど、どうして…私…なんかを?」



跡部は桜乃を抱き締めていた腕を緩めて、桜乃を見つめた。


「夕方、ここでお前を見たときに…運命を感じた」

「…っ、うんめ…い…?」

「そうだ…この馬鹿でかい船の中で、偶然に俺とお前と出逢えた…」


(偶然……そうだ、私は本来ならこんな場所にいれる立場じゃない…。偶然チケットをいただかなければ、跡部さんを知ることはなかった…)


「運命だなんて、今まで使ったことがない言葉だった。…だか、お前を見た瞬間に、その言葉が浮かんだんだ」


(跡部さんを見た瞬間…私は…、どうしてか動くことすらできなくて…)


「俺はお前との出逢いを運命だと信じている。」


(出逢ったとき感じたのは…運命?)


「桜乃。お前も、この運命を信じないか?」


(運命を……)


「し、んじ…ます」


浮かされたように、そう答えた桜乃。
跡部はフ…と笑い、桜乃の唇に自分の唇を落とした。




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