□My heart will go on.
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あの夜から桜乃と跡部は何度となく会う約束をし、逢瀬を楽しんでいた。

その間にお互いのことも少しずつ知っていき、二人は出会ってから日がまだ浅いということすら忘れるくらい親密になっていった。





そしてタイテニック号が出航してから4日経ったある日──



「…何だ?…」


周囲の確認をしていたタイテニックの船員の一人が、双眼鏡で前方に大きな何かがあることに気付く。



「…あれは……まさか!」


その何かが、確信へと近づいたとき、青ざめながら船員はすぐに船長の元に向かい報告をしたのだった。



「船長!前方に……巨大な氷山が!!」




・・・・・・




その日の夜、桜乃は跡部と会った後、部屋に戻るために階段を降りていた。


(今日で跡部さんと出会って4日かあ…もう4日も経つんだなあ)


いつものように跡部と会って、いつものように話をして、いつもと同じ時間に部屋に戻る。
何も変わらない夜だった。

その時までは。




───ゴォォン!!



「きゃっ…!?」


突然船体が大きく揺れる。

桜乃はバランスを崩して階段から落ちてしまった。



「痛……な、何…?」



ガガガガガ…と何かが削れるような騒音が、船内中に響き渡り、次第に船が傾いていく。


「きゃあああ!」

「沈む!沈むぞぉ!」


多くの悲鳴、叫び声、そして駈けていく人々。
誰もが船の異常を感じ、早くこの船から逃げ出そうと駈けていく。



「あ、私も…っ、逃げなきゃ…痛っ」


桜乃も逃げなければと、立ち上がろうとするが、先ほど階段から落ちたときに足を痛めてしまったらしい。



(ど、どうしよう……!おばあちゃん……、跡部さん…!)



桜乃は愛しい人たちのことを想いながら、壁に寄り添いながらなんとか立ち上がろうとしていた。




・・・・・・




「落ち着いて!一人ずつ、順番に救命ポートに乗ってください!」


船員の誘導も無視し、混乱した乗客たちが次々と押し寄せ、我先にとボートに乗り込もうとしている。


そんな中、一人の青年…跡部はキョロキョロとある人物の姿を探していた。




(…いない…)



既にボートに乗った?
いや、全部のボートを見たが確かにその中にはいなかった。

だとしたら…、まさか…?



跡部の頭に嫌な予感がよぎり、それを決定付けるような叫び声が跡部の耳に入る。




「桜乃ー!桜乃、どこにいるんだい!?」


桜乃の祖母、スミレの声。
保護者であるはずのスミレと一緒にいない…ということは、やはり…!


「ボートを出すの待っとくれ!まだ孫が来とらんのじゃ!」

「で、ですが…早くしなければ船が沈んで…」



そんなやり取りを耳に入れながら、跡部は急ぎ船内に戻っていく。


「ぼっちゃま!?」


自分を呼ぶ使用人の声が聞こえたが、跡部は立ち止まることはなかった。


(桜乃…!)


この混乱の中、ここにいないということは…
動けない状態なのかもしれない。
どこかに閉じ込められているか、怪我を負っているか…

(…無事でいてくれ)


祈るような気持ちで、跡部は愛しい娘の名前を呼びながら、傾いている船内を探し回った。




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