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□My heart will go on.
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「それじゃ、買い物に行ってくるね。おばあちゃん」
「ああ、気を付けるんだよ。桜乃」
タイテニック号の沈没から数週間が過ぎようとしていた。
あの後、SOSを受けた救助隊が、タイテニック号から脱出した乗客たちを救出した。
桜乃も、跡部も、そのとき救出された。
桜乃はそのときのことはよく覚えてはいない。
ライトで照らされて、『大丈夫か!?』という声が聞こえて…その後の記憶はなく、気が付けば病院にいて、スミレや両親が桜乃を覗き込んでいた。
後から聞けば、桜乃は一週間眠っていたらしい。
目覚めたとき、『良かった…!』と抱き締められ、母は泣いていた。
しかし、そのとき跡部の姿はそこになかった。
スミレの話では、タイテニック号で救助された乗客たちは、一度は同じ病院に運ばれたらしいが、その後で、ベッドの数が足りなくなったり、住んでいる場所、家族の意志などから、病院を移される乗客も少なくはなかったらしい。
跡部もその一人なのではないか、とスミレは言った。
桜乃は跡部がどうなったかは知らない。
(けれど、きっと…どこかで元気でいるはず)
跡部から何も連絡はなかったが…、いや、連絡先も教えてはいなかったし、跡部の連絡先を聞いてはいなかった。
もしかしたら、もう二度と会えないかもしれない…、だけどどこかで彼が幸せになってくれているならば、桜乃はそれで良かった。
───『愛している』
囁かれた言葉。
抱き締められたときに感じた温度。
(全部…覚えてる)
まるで夢のような非日常的な日々だったけれど、確かに現実だった。
終わりは儚いもの。
だけど、決して忘れない。
ずっと…。
「…桜乃」
……え?
「跡部…さん?」
街の中、桜乃の前に現れたのは端正な顔立ちをした青年…数週間前と変わらない、跡部の姿だった。
「まったく…探したぜ。連絡先も住んでいる場所も、聞いてはなかったからな。時間かかっちまった」
「……」
呆然して動かない桜乃に、跡部はフ…と笑って桜乃に近づき、抱き締めた。
「…夢みたい…です」
「…ん?」
「だって…また、会えるなんて…」
「…バーカ。会えるに決まってんだろ。お前は俺の、運命の相手なんだぜ?」
「あ…」
最初に跡部さんに会ったとき…感じた運命。
跡部さんが私に…感じてくれた運命。
「途切れないさ。絶対に途切れさせない。この運命は…」
大好きな、私の運命の人───
「愛している、桜乃。…俺と共に生きろ」
「…はい!」
再び、繋がったこの運命。
二人の運命の物語は…
終わりなどないのだろう。
きっと、
永遠に───…。
【My heart will go on.】
(あの時に願った、一緒の未来…きっと、叶えられるはず)
end
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