□偶然か運命か
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(…くそ…、)

氷帝学園3年の宍戸亮は、商店街の雑貨屋の中でため息をついた。
1月14日、今日は何もない普通の平日だった。
…同級生である忍足侑士の言葉を聞くまでは。


『今日、竜崎桜乃ちゃんの誕生日なんやってな』


竜崎桜乃とは、青春学園一年生で、宍戸がよくテニスを教えている少女だった。
桜乃は面倒見のよい宍戸を慕っていて、宍戸もまた、桜乃のことを妹のように可愛がっていた。

そんな桜乃の誕生日だということを、当日になって知った宍戸。
宍戸は今日まで知らなかったというショックと、何も用意していないことへの焦燥感に駆られていた。


「ありがとうございましたー!」


雑貨屋から出た宍戸は、手の中の小さな小包を見て再びため息をつく。
慌ててプレゼントを買ったものの、今日桜乃と会う約束をしているわけではなかった。

(もう夕方だし、今日は…会えるわけねーよなあ)

宍戸は赤く染まり始めていた空を見上げた。
本当は当日に渡したかった、なんて。
今日まで知らなかったくせに、そんなことを思うのは勝手だと思うけれど。

…誕生日を知らなかったことがショックだった。
…当日にプレゼントを渡して、そばで祝いたいと思った。

妹のように思っていた桜乃が、いつのまにこんなに自分の中で特別になっていたのか。

(それってやっぱり、俺はあいつのこと…)

自分の中に芽生えていた想いを自覚しながら、宍戸は買ったプレゼントをポケットにしまおうとした、が。


「っと…」


手がすべった宍戸は、プレゼントを地面に落としてしまった。

慌てて拾おうとして振り返ると、別の誰かが先に拾った姿が目に入った。


「…!」

「落としましたよ…、あれ、宍戸さん?」

「…竜崎…、」


ずっと考えていた桜乃本人が、目の前にいる。
宍戸は驚きすぎて固まってしまった。


「…偶然ですね、お買い物ですか?」

「ま、まあな…」

「あの、これ…」


拾ったそれを、桜乃は宍戸に返そうとした。
可愛くラッピングされているそれは見るからに男子が自分用に買った包みではないことに、桜乃の胸はざわざわとした。
誰かへのプレゼントか、誰かからもらったものか…。
少しモヤモヤした気持ちになっていると、宍戸はそれを受け取らず「…いい」と答えた。


「…え?」

「お前のために買ったものだから、返さなくていい」

「!! ど、どうして…」

「誕生日なんだろ?今日…」

「! 宍戸さん、知っていたんですか…?」


驚いている桜乃に、宍戸はばつの悪い顔で答える。


「いや…、今日知ったんだ。だから、慌ててそれを買って…」

「……」

「きゅ、急ごしらえのプレゼントだし、落としちまったけど…お前に貰って欲しいんだ。な、中身は壊れるもんじゃないから…!」


桜乃の反応が心配で、宍戸は言い訳のような口ぶりになってしまった。
しかし桜乃は呆然とそのプレゼントを見つめたあと、大事そうにそれをぎゅっと胸に当てると、嬉しそうに笑った。


「ありがとうございます。宍戸さんからプレゼント貰えるなんて…本当に嬉しいですっ!大事にします…」

「…! あ、ああ。誕生日おめでとう、竜崎」


あらためて祝いの言葉を口にすると、桜乃はまた「ありがとうございますっ」と言って笑った。
桜乃の笑顔を見て、宍戸は胸が熱くなる。

当日には祝えないと思っていたのに、偶然会って、プレゼントを渡すことができた。
まるで運命のようだと、宍戸は感じていた。

(今しか…ない気がする。)

今が絶好のチャンスだと、宍戸は思った。

ここで言わなければ男じゃない!


「なあ、竜崎。俺、お前のことーー」



宍戸の想いを聴いた桜乃は驚いたあと瞳に涙をためて、頬を染めてその想いを受け入れた。
偶然生まれたチャンスは、まるで運命のように、二人の恋を実らせた…。



【偶然か運命か】

(運命を信じてしまうほど、この偶然が嬉しかった)



end

ソライ様からいただいたリクエストで宍桜で桜乃ちゃんのお誕生日です。
当日になって人づてに桜乃ちゃんのお誕生日を知る宍戸くんというシチュをいただいて、書いてみました!
ソライ様の思うようなお話になっていれば良いのですが(><)
宍戸くんみたいなピュア真っ直ぐな子は好きです(*^_^*)
ソライ様、企画へのご参加ありがとうございました。


2015.1.14

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