□イチゴのような君
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3月14日。
今日は俺が大好きな彼女に、愛を返す日。

――ピンポーン

「来たっ」


一ヶ月前と同じように、俺の部屋でデートの約束。
約束していた時間に鳴ったチャイムの音に、俺は急いで玄関に行ってドアを開けた。


「桜乃」

「こんにちは、ブン太さん」


ドアの向こうには長いおさげに薄いピンクのワンピースを着た桜乃がにっこり笑っていた。
俺は彼女を家の中に招き入れる。


「今日は転ばなかったのか?」

「もう、私そんなにしょちゅう転びません」

「いや、しょちゅう転んでるだろぃ」

「う……。」


一ヶ月前のバレンタインの日に、桜乃は家に来る途中で転んでひざに血を流したままうちに来た。
それだけじゃなく、外でデートしているときも、桜乃はよく転びそうになる。


「まあ、一緒にいるときは俺が支えてやるから。それ以外のときはちゃんと気をつけろよぃ?」

「! は、はい…」

「ん。…あ、そーだ。桜乃、先に俺の部屋行ってて。」

「? わかりました」


先に桜乃を部屋に行かせて、俺は台所に向かった。
冷蔵庫を開けて、目的のものを取り出し、紅茶を用意してそれらをお盆に乗せ、俺も自分の部屋に向かう。


「お待たせ」


ガチャリと部屋のドアを開けると桜乃は俺の部屋にちょこんと座っていた。
俺は彼女の前にお盆をおく。


「わ…、ブン太さん、これは…」

「ハッピーホワイトデー!なんつって」


バレンタインのチョコのお返し。
昨日の夜俺が作ったイチゴのケーキ。
いろいろ考えたけれど、やっぱ手作りが一番だろぃ!


「わああ、すごーい!!ブン太さんが作ったんですか!?」

「まあな。ほら、桜乃が最初に食べて」

「いいんですか?」

「当たり前だろぃ!桜乃のために作ったんだからよ」


わーって喜びながら、桜乃はケーキにフォークをさして一口分とって口に入れる。


「ん〜〜〜!!おいしいです!!ブン太さんっ」

「当然だろぃ。俺の愛がたーっぷり込められてるんだからな」

「!!…えへへ、嬉しいです…」


照れて赤く頬を染めながら、桜乃はふわりと微笑んだ。
その姿があまりに可愛くて、だから俺は嘘をついた。


「桜乃、クリームついてる」


どこにもクリームなんて、ついてないのに。


「え?どこですか?」

「…とってやるよ。」


ぐい、と桜乃を引き寄せて、そのまま彼女の唇を奪う。


「!!」


俺は少しだけ深く、桜乃の唇に口付ける。
ほんのりと生クリームの味がした。


「ん〜〜、美味ぇ。やっぱ俺って天才的?」

「〜〜〜〜〜っ!!!」


ケーキの上のイチゴのように、桜乃の顔は真っ赤に染まった。
超美味そう。
いっそ食べてしまいたい。


「はは、」


なんてな。もしかして俺って結構アブナイ?


「!?ブン太さん、何笑ってるんですかっ」


思わず笑うと、桜乃が真っ赤の顔のままで怒った。


「美味そうだなって、思ってさ」

「? おいしいですよ?ブン太さんも食べればいいじゃないですか」


一緒の食べましょ〜、と続ける桜乃。
そうじゃなくて、さ。
美味そうなのは、桜乃のほうだって。
まあそんなコト言ったら、桜乃は爆発するかもしれないから言わないけどさ。


「食う食う、桜乃一人じゃ食いきれないもんな。俺は1ホールなんて余裕だけど。」


俺は自分の作ったケーキをフォークでとって食べ始める。
桜乃も食べるのを再開した。


「本当に、おいしいです!…ありがとうございます、ブン太さん」

「ん。」


ホワイトデー。
甘い甘い時間を、
彼女と一緒に過ごしていた。



【イチゴのような君】

(とびっきりのデザートは、後に残しておこう。)




end

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