□優しい帝王
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青学と氷帝の合同合宿。私はお祖母ちゃんのお手伝いとして、参加することになった。
皆さんの練習が終わって、ボールがいっぱい入ったかごをお祖母ちゃんに言われた場所に片付けている途中。


「きゃっ…」


かごが重たくて私はふらふらと歩いていたら、よろけて転びそうになった。


――がしっ!


「っ!?」


倒れそうな体を後ろから支えられる。
持っていたかごは落としてしまい、ボールは下にばらばらとおちてしまったけれど。
私は支えてくれた人にお礼を言おうと、顔をうしろに向けた。


「っ!あ、跡部さん…!?」


うしろから抱き止めてくれた人があの跡部さんだったということに私は驚愕する。


「…気をつけろ」

「は、はい!ごめんなさいっ!…ありがとうごさいました」


慌てて跡部さんから離れて深くお辞儀をする。
跡部さん…。
氷帝の部長でテニスがすごく強くてお金持ちで女の子に人気があってとにかくすごい人…。
話すのも今が初めてで関わりがあったわけでもないのに、…助けてくれるなんて。


「礼なんか言ってる暇があったら早くボールを拾え」

「あっ、はい!すみません」


そう言われて私は急いで辺りに散らばったボールを拾い始める。
そしたら跡部さんも一緒に拾い始めて…。


「あああ跡部さんっ!」

「アーン?」

「わ、私が全部拾うんで跡部さんがそんなことしちゃダメですっ!」

あの跡部さんにボールを拾わせるなんて…!
ダメダメそんなおそれ多い!!


「お前1人でやってたら時間かかるだろーが」

「それは、その…でも」

「くだらないことほざいてないで早く拾え」

「う…は、はい」


止めても跡部さんはやめる気もなさそう。
1人で拾わせるわけにもいかないので私は言われた通り拾うのを再開した。


「これで全部ですね」

「ああ」

「跡部さん、…本当にありがとうごさいました。助けていただいた上に、ボールまで拾っていただいて…」


ボールを全部かごに戻し終わって、もう一度跡部さんにお礼を言う。


「フン、今後は気をつけろ」

「はぁい」

「それで?これはどこに運ぶんだ」

「…えっ?」


跡部さんはボールの入ったかごを持ち上げて、私にそう尋ねてきた。


「だ、第一倉庫ですけど」

「わかった」

「ええっ!?あ、跡部さんっちょっと待ってくださいっ!!」


跡部さんは私が場所を答えた後すぐにかごを持ったまま進み出して、私は慌てて跡部さんの後を追う。


「私が運びますっ!」

「やめとけ。またコケるぜ」


跡部さんは止まらずにすたすたと進んでいき、私もそれに着いていき歩きながら跡部さんに話しかける。


「そ、それでも、これ以上跡部さんにご迷惑かけるわけには…!」

「…お前な、無理そうな仕事があったら周りを頼れ」

「え…?」

「力仕事ならここにいるやつらは全員得意分野みたいなもんだ。無理そうだったら誰でもいいから声をかけろ」


意外な言葉に困惑しながらも、私は答える。


「でも…皆さん練習で疲れてますし…」

「だったら俺を頼れ」

「え!?」


もっと意外な言葉が聞こえてきて更に困惑する。


「練習ごときでこの程度のことができなくなるくらい疲れたりはしねえよ。…他に声がかけられないなら俺でいい」

「そ、そんな…」


跡部さんの言葉に私はもうなんて返したらいいのかわからなくなった。
跡部さんって…。


「優しいんですね…」

「あん?」

「だって、私なんかにそんなことまで…」

「…誰にだって優しいわけじゃねえぜ?」

「えっ?」


どういう意味?
わからなくて跡部さんを見る。


「お前がこの合宿でよくやってくれていることは、ちゃんと知っている」

「…!」

「だから、いいんだ。少しくらい人を頼っても」

「跡部さん…」


優しすぎる跡部さんの言葉に、私は嬉しくて目が少しうるってなった。


「おい、ここでいいのか?」

「えっ?あ…はい」


いつのまにか第一倉庫についていて、跡部さんはかごを倉庫の中に置く。
…結局、運んでもらっちゃった。


「ありがとうごさいました、跡部さん…」

「これくらい、たいしたことねえよ。…竜崎」

「は、はい」

「…何かあったら、真っ先に俺を頼れよ?」

「…!!」


跡部さんは少し微笑んで私の頭を優しく撫でて、そう言う。


「…ほ、本当に…頼ってもいいんですか…?」


そんな優しい表情で、優しいことを言われたら
甘えてしまいそう。


「フン、当然だろ?」


もう一度、優しく微笑まれて、私は自分の心臓の音が速くなるのを感じた。

「いつまでもここにいる意味はねえ。そろそろ戻るぞ」

「は、はいっ」


跡部さんは来た道を戻り始めて、私も慌てて跡部さんを追う。
跡部さん…、氷帝の部長でテニスがすごく強くてお金持ちで女の子に人気があってとにかくすごくて…、そしてとっても優しい人。
跡部さんへの印象を、改めた時間だった。



【優しい帝王】

(慌てて跡部さんを追ったら、跡部さんは立ち止まって私を待ってくれた。)



end
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