□ふたつのウソ。
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「…桜乃ちゃん」

「なんですか?」

「髪にゴミがついているよ」

「えっ!?どこですか!?」


彼女は慌てて頭に手をやってかさかさと髪の毛をさぐる。


「ふふ、俺がとってあげる。…手をどけて?」

「はい…、すみません幸村さん」


彼女は素直に手をどける。
俺は彼女の髪にそっと触れてから、その手を移動させ彼女の頬にそえた。


「? 幸村さ…っ!!」


俺は彼女の柔らかい唇を奪って、しばらくの間その感覚を楽しんでいた。


「…はあっ…幸村さん…」

「…ねえ、桜乃ちゃん。…今日が何日か知ってる?」

「えっ…?…えっと…4月1日…、あ!」

「…ふふ」

「ゆ、幸村さん!まさかゴミがついてるって嘘…!?」

「ごめんね?」

「〜〜〜〜っ!」


彼女は真っ赤な顔で頬を膨らませて俺のことを睨んでくる。
そんな様子が可愛くて、俺は頬を緩ませながら彼女を見つめた。


「ゆ、幸村さんっ!」

「うん?」

「幸村さんも髪にゴミがついてますよっ!」

「え?」

「と、とってあげますっ!!」

「…っ!」


彼女は手をのばして、俺の頬にそっと触れて一瞬だけ唇を重ねた。


「…し、仕返し…です」


いきなりのことに驚いていると、彼女はそんな可愛いことを言ってきた。


「…ああもう。君って本当に…可愛すぎ」

「あ……」


ぎゅって彼女の体を抱き締めた。
彼女の髪からする甘い香りが鼻をくすぐる。


「…大好きだよ」

「…う、嘘じゃないですよ、ね…?」

「ふふ、…嘘だと思う?」

「そ、それはその…嘘じゃなければ…いいなあって…思います…」

「うん…嘘なわけないよ。…君が好き」

「!…えへへ…良かったです…」


エイプリルフール。

俺が君についた小さな嘘。

仕返しに君が俺についた小さな嘘。

お互いについた同じ嘘は、

キスをするための甘い嘘。



【ふたつのウソ。】

(それはとても甘い時間をくれたんだ。)




end

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