□ホントウの愛
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「赤也ー」

「ん?何だよ」

「ちょっと大事な話があるの」


今は春休み中。
今日は部活がないから、行き付けのテニスクラブに行こうと遅めの朝食(もうほとんど昼食)を食べていたら姉貴が話しかけてきた。


「大事な話ぃ?」

「実はね、私…」

「うん」

「男なのよ」

「…はっ?」


いきなりの姉貴の突然の爆弾発言に、一瞬びっくりしたけど…。


「そ、そうだったんだ、確かにそっちの方がしっくりくるな」

「…え?」

「うん…、今までの女とは思えない暴言や暴力の数々を考えると納得できる」

「ちょ、赤也?」

「いや〜、びっくりしたけどさ、今考えると確かに女じゃなかったもんな!これからよろしく、あにき…」


どかっ!!!
頭におもいっきり鉄拳をくらう。


「いってえぇーーー!!何すんだよっ、あに…」

「うるさいっ!何本気にしてるの!私は女よ!!見ればわかるでしょーっ!!」

「はあ!?」

「今日は4月1日!エイプリルフールよ!!」


あー…、つまり嘘ってわけね。


「ったく、つくならもっと分かりやすい嘘つけっての…」

「じゅーぶんに分かりやすいでしょうがっ!」


ふん、と部屋から出ていく姉貴。
俺も理不尽にジンジンしてしまった頭をさすりながら、家を出てテニスクラブに向かった。



「あ、切原さんっ!こんにちは」

「よ、竜崎。お前も来てたのか」


テニスクラブで一人の少女にあいさつをする。
竜崎桜乃。青学の1年(いや、もう2年なのか?)ですっげー素直でいいこ。テニスはまだまだだけど、努力家だってことは見ていてわかる。
彼女とはここのテニスクラブで知り合い、たまに一緒に練習する仲。
…まあ、こっちとしてはもっと親しい仲になりたいんだけど。
あっちの気持ちがわからないし、今んとこ何も進展ナシ。

それにしても…


「あ〜くっそ〜〜姉貴のヤツ…思いっきり殴りやがって」


姉貴に殴られたところがまだジンジンしている。


「? ケンカでもしたんですか?」

「いや…ケンカっつーか…」


俺は姉貴とのやりとりを竜崎に話した。


「ふふっ…面白いお姉さんですね!」

「笑い事じゃねーっつの!ったく、勝手に嘘ついて勝手に怒るんだぜ?勘弁してほしーぜ」

「ふふ、切原さんがそんな嘘にひっかからないと思ったんですよ」

「いや…、うちの姉貴なら男って言われても結構納得いっちまうって」


今日だって女とは思えない鉄拳をくらわされたわけだし…。


「あーもう、姉貴の話はやめだ。余計頭痛くなってきた。…竜崎、あっちで一緒に打ち合おうぜ」

「え?いいんですか?私なんかで…」

「…アンタがいいの。いこーぜ」

「! は、はい!」


そうして、しばらくの間俺たちは一緒に練習をしていた。


「ありがとうございました、切原さん。練習見てもらって…」

「ああ」


練習を終えて俺たちは一緒に帰っている。
一緒に、つっても方向が違うから途中までなんだけど。
もう少し、…一緒にいたい。


「なあ、竜崎。ちょっとそこの公園寄ってがね?」

「? いいですよ」


竜崎を公園に誘って、ベンチ座る。


「あー…えっと、なあ、竜崎」

「はい?」

「お前さ、付き合ってるヤツとかいんの?」


なんとなく出てきたのがそんな話題だった。


「えっ!!?い、いませんよっそんな人!」

「ふーん、そっか…」


良かった。
とりあえず安心だ。


「き、切原さんはっ、いるんですか?そういう人…」

「俺?いねえよ」


できたらアンタになってほしいんだけど。
…この流れでいっそ告白しちまおうか。
でもフラれたら、めちゃくちゃ気まずいし…
こんな風に話せなくなるかもしれない。

『今日は4月1日!エイプリルフールよ!!』

家を出てくる前に聞いた姉貴の怒声が頭をよぎった。
そうだ、もしフラれても、告白自体をエイプリルフールのウソだってことにしてしまえば、気まずくなんないかも!


「あ、あのさ、竜崎」

「切原さん、あのっ」

「へっ?」

「あっ…」


同時に話しはじめて、ビミョーな空気が流れる。

「りゅ、竜崎が先に言っていいぜ」

「い、いえ、切原さんが先にどうぞっ」


お互いに譲り合って、どうしようもなくなってきた。


「あーわかった。じゃ、…俺から言う」

「は、はい」

「俺、…アンタが好きだ。」


「…えっ!?」

「だからさ…俺と、付き合わねえ?」

「あ、あのっ…えっと」

あーやべえ…
ついに言っちまった!!
もう駄目だもう無理だ!!!
頭ん中はぐちゃぐちゃと負の要素が回っている。
フ、フラれるか…?
やっぱウソってことに…


「竜崎、さっきのは…」

「う、嬉しいです!私も…切原さんが好きです」

「へっ?」


ウソってことにしようとしたら、竜崎の思いがけない言葉に間抜けな返事をしてしまった。
一瞬にして頭ん中のぐちゃぐちゃがふっとんで、今度は真っ白になる。

えっと…つまり、
OKってことだよな…?

い、いや待てよ!

今日って確か…


「な、なあ、竜崎…」

「は、はい…?」

「それ…『嘘』じゃないよな…?」

「…えっ?」

「だって今日、エイプリルフールだし…」

「ち、違いますよ!!…ま、まさか、切原さんの告白が嘘だったんですか…?」

「ばっ!!ちげーよっ!!」


泣きそうな表情でそんなことを聞いてくる竜崎に俺は即座に否定する。


「俺は本気だっ!!」

「わ、私だって本気ですっ!!」

「………」

「………」

「…ははっ」

「…!き、切原さん?」


何だか変な言い合いに、おかしくなってつい笑ってしまった。
竜崎は困ったような顔で俺を見ている。
俺はそんな竜崎の体を抱き寄せて、腕の中に閉じ込めた。


「きゃっ」

「悪かったな、疑って。お前、こういう嘘なんかつくタイプじゃねーもんな」


ちょっと考えればわかるけど、たぶん嬉しすぎてテンパってたんだろうな。


「いえ…そんな…」

「好きだぜ、…桜乃」

「っ!…あ、」

「エイプリルフールだけど…嘘でもなんでもねーよ。アンタが好きだ、大好きだ。」

「…わ、私も…切原さんが…」

「…赤也って呼べよ」

「…!…あ、赤也さん…が、大好きです…本当に」

「…ん。サンキュ、桜乃」


夕暮れの公園。
俺たちの影はしばらくの間重なっていた。



【ホントウの愛】

(今日がエイプリルフールでも、俺たちの通じあった気持ちに嘘はないぜ!)



end

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