□そんなあなたが大好きです
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目を開けたら、目の前には薄いグレーが視界を埋め尽くしていた。


「ん〜…んん?」


頭が覚醒してきて、よくよく今の状況を考える。
目の前はグレーの世界。
仁王さんのシャツの色。つまり、私は今…


「え…、ええっ!?」


抱きしめられてる!
仁王さんに抱きしめられてる!


「な、なななんでっ!?」


もぞもぞと顔を動かして上を見ると、瞼を閉じた仁王さんの顔が見えた。


「に、仁王さん…?」


寝てる…?
私も今まで寝てたわけだし…。
でも…、どうして仁王さんに抱きしめられて寝てたんだろう?


「えっと…」


今日は仁王さんの部屋に遊びに来てて、
それで私はいつのまにか寝ちゃっ…て…?
でも少なくとも、そのときはこんな状態じゃなかったはず!
どうしてこんな体勢に…?


「すー…すー…」

「〜〜〜っ」


近い!
近いよ仁王さん〜〜っ!!
ものすごく近い位置に仁王さんの顔がある。
綺麗な銀色の長い前髪が仁王さんの顔にかかっている。
まつげ…長いなぁ。
肌も荒れてないし鼻筋も整っていて、本当に綺麗な……


「ん…」

「…っ」


〜〜〜っだめ!
何考えてるの私!


「う〜〜〜」


もう、ドキドキしすぎて変になりそう!!
私は必死にもぞもぞと仁王さんの腕を抜け出そうと試みるけど…。

ぎゅー

「ん〜〜〜っ」


何故かもっと強く抱きしめられて、抜け出すのは不可能だった。
どうしよう〜〜!!


「…ふっ…」

「!!……はふっ!?」


私が1人でパニックになっていると上から笑うような声が聞こえて仁王さんのことを見ようとしたら、ぎゅむっと仁王さんの胸に顔を押し付けられた。


「むぐ〜〜〜〜っ!」

「俺のお気に入りの抱き枕なんじゃから、離してなんかやらんよ?」

「!!」


だ、抱き枕!?
じたばた暴れてみても仁王さんは離してくれなかった。
っていうか仁王さん!
少しだけ緩められた腕からぷはっと顔を出して、仁王さんを見る。


「起きてたんですか〜〜〜!?」

「んー、面白かったのう。桜乃の慌てる姿」

「〜〜〜〜っ!」


くくっとおかしそうに笑う仁王さん。


「も〜〜仁王さんっ!」

「こらこら。暴れなさんなって」

ギシッ…

「きゃっ」


私はとにかく恥ずかしくて未だ解放されない腕の中からの脱出をめげずに試みていると、いきなり背中をベッドに押し付けられた。


「仁王さん?」


私の上に覆い被さるような体勢で私のことを見つめる仁王さん。
私は意味がわからないまま仁王さんを見上げる。


「……」

「?」

「……はあ。まったくの予想通りじゃ」

「?? 何がですか?」

「本当にお前さんは…なーんもわかってないんじゃな」

「???」


仁王さんの言葉が理解できなくて、「?」をいっぱい浮かべていると、仁王さんは両手を私の顔に伸ばしてきた。


「桜乃…」

「仁王さ…」

――うにっ

「ふぇ!?」


うに〜〜〜っとつねられて左右に伸ばされる私の頬。


「ふぃ〜〜〜!いひゃいへす〜〜」

「よーく伸びるのう。ハムスターみたいじゃ」


痛いです、と訴えても仁王さんはうにうにとひっぱるのをやめなかった。


「なーんもわかってない、桜乃が悪いんじゃよ」

「ふぁい?」

「この超天然鈍感純情娘。」


また訳がわからないことを言った後、仁王さんはそっと私の頬を離して代わりに優しく触れた。


「でも…ま、そんな桜乃を好きになったんじゃけどな」

「えっ…」


――ちゅっ


「…!」


突然降りてきた唇が私の唇を塞いだ。


「…んっ…」

「今は…これで我慢するぜよ」


顔を熱くさせた私に、仁王さんは怪しく笑ってそう囁く。


「今は、な…」

「…っ」


それだけをもう一度、今度は耳許まで唇を近づけて囁かれて私の顔もっと熱を帯びた。


「さて…そろそろ起きるかの」


そう言って私の上からどいていく仁王さん。


「〜〜〜仁王さんは」

「ん?」


ベッドの上に取り残された私はまだ心拍数が高かったけど、なんとか声を絞り出した。


「優しいけど、ときどき訳がわからなくて、…意地悪ですっ!」


起き上がってそれだけ言うと、仁王さんは、ふって笑った。


「でも、そんな俺が好きなんじゃろ?」

「〜〜〜〜そうですっ!」


ムキになって肯定すると、仁王さんはまた楽しそうに笑っていた。

だって仕方ないもん。

優しいけど、

ときどき訳がわからなくて、

意地悪で、

突然甘い言葉とか言ったり、

キスしたりして…。

いつも私は振り回されてるけれど。


「さーくのチャン。ジュース飲むか?氷溶けて薄くなってるけど」

「〜〜いただきますっ!」


それでもやっぱり私は、
そんな仁王さんが大好きなんです。

手渡されたコップを口につけると、少し薄くなったオレンジジュースの味が口の中に広がっていった。



【そんなあなたが大好きです】

(にしても、訳がわからなくて意地悪…か。なかなか言うねえ、桜乃チャン?)(えっ!?そっ、それはその…)




end

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