キリリク

□恋が始まる学園祭
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よく晴れた秋の日曜日の正午前。
大阪にある四天宝寺中は、学園祭を開催している真っ最中だった。


(ええっと、次は…)

四天宝寺中テニス部の部員たちと面識がある青春学園の竜崎桜乃は、彼らにこの学園祭に招かれ、忙しく校内を動き回っていた。

青学との合同合宿がきっかけで四天宝寺中の面々と仲良くなった桜乃。青学テニス部も今日の学園祭は誘われていたのだが、あいにく練習試合が入ってしまい一緒に来られなかったので、桜乃は東京から一人で四天宝寺中に訪れたのだ。
そして桜乃は入口でもらった校内地図を片手に、時間をチェックしつつさまざまな場所を巡っていた。その行動には理由があった。


…数日前、四天宝寺中の部員たちは電話で直接桜乃を誘っていた。


『ほな、桜乃ちゃんは来れるんやな?』

「はい!楽しみです!」

『あんなぁ、桜乃!ワイ、たこ焼き大食い大会出るねん!見に来てや!!』

「遠山くん?うん、わかった!見に行くねっ」

『アタシとユウくんはコンビで漫才バトルに出るから、良かったら応援に来てね桜乃ちゃん』

『俺と小春が絶対優勝やで!』

「金色さんに、一氏さん!わあ、お二人の漫才楽しみですっ」

『俺と白石はクラスで劇をやるで。』

『俺と謙也が主役なんや。ぜひ観に来てや』

「そうなんですか?絶対観に行きます!」

『俺を師範は校内将棋大会に出るばい。なあ、師範』

『千歳はんと対戦するのを楽しみにしてはります』

「わあ!将棋大会もあるんですね!応援に行きますねっ」


青学との合同合宿で桜乃のことを非常に気に入っていた四天宝寺中の面々は、電話の向こうから口々に自分が出るイベントを宣伝して、桜乃との約束を取り付けていた。


『財前ちゃんは、何か言っとくことないの?』


小春がまだ声を発していなかった二年生レギュラーの財前光に話を振る。
桜乃は財前の名に、ドキ、と胸を鳴らした。


『…俺は別に。クラスの出し物も裏方やし、特にイベントも参加しないんで伝えることとかないです』

『そう?』


少し離れたところから聴こえる声。電話を代わったわけではないらしいが、財前の言葉を聴いてしまった桜乃はすこしだけシュンとしてしまった。


『それじゃあ桜乃ちゃん、また当日にね』

『待ってるからなー!!』

「は、はいっ!楽しみにしています!」


そう言って電話を切った数日前。


そして学園祭当日の今日、桜乃は数多の約束を果たすために校内を走り回っていた。

四天宝寺中に来た桜乃が最初に向かったのは屋外のイベントステージで行われていた金太郎が出場しているたこ焼き大食い大会だった。
金太郎は桜乃にきづくと名前を呼んで嬉しそうに手を振った。
そして開始の合図と共に、用意されたたこ焼きを勢いよく食べ始めた。
結果は、桜乃の応援もあってかダントツで金太郎の優勝だった。


「桜乃、来てくれておおきにな!!見とった?ワイ、いっぱい食ったで!!」

「うん!すごかったよ遠山くん!」

「へへっ、桜乃が見てると思ったら、めっちゃ頑張れたんや!」

「そ、そうなの?それなら良かったよ」


クラスの当番があるという金太郎と別れ、次に桜乃が向かったのは、将棋大会が行われていた講堂だった。
将棋大会は予選は事前に行われていて、今日は予選を勝ち抜いた二人…千歳と石田の決勝戦を講堂で行っていた。
勝負は接戦の末、千歳に軍配が上がった。


「お二人共、すごかったです!!見ているこっちまで緊張してしまいました…!」

「師範は強かね、才気煥発を使っても厳しいばい。桜乃が見てくれてたから勝てたのかもな…」

「えっ」

「言わはりますな、千歳はん。次は負けん」




新聞部の取材があるという千歳、石田と別れたあと、桜乃は白石と謙也のクラスの出し物である劇を観に体育館に向かった。
劇のタイトルは「白石姫」。席についてもらったパンフレットで確認したとき桜乃は「!?」となったが、あらすじを見るにどうやら白雪姫のパロディらしい。
主役の白石姫を白石、準主役の王子役は謙也という配役だった。
物語は白雪姫のような恋物語ではなく、ゆかいなコメディ調になっていた。


「…とっても面白かったです!せっかちな王子様が、姫がりんごを食べる前に来ちゃったときはびっくりしました!お二人共、ほんとうに素敵でした」

「ほんま?桜乃ちゃんに楽しんでもらえたならよかったわ」

「女装した甲斐あったっちゅー話やな、白石姫」

「もう姫って言うなや謙也…」

「ふふっ」



着替えに戻った白石と謙也と別れた桜乃は、再びイベントステージに戻っていた。
ステージでは漫才バトルの真っ最中だった。

(金色さんと一氏さんは最後…だよね)

小春と一氏の出番にはどうにか間に合って、桜乃は客席についた。
しばらく待っていると派手なアフロと仮面をつけた小春と一氏がハイテンションに登場して、会場が盛り上がった。
バトルの結果は、審査員の満場一致で小春と一氏のコンビが優勝だった。


「桜乃ちゃん、観にきてくれたんやね〜」

「はい!お二人ともすっごく面白くて、いっぱい笑っちゃいました」

「せやろ?俺と小春のコンビは最強やからな!」

「…ユウくん、次はピンでモノマネバトルあるんやろ?そろそろ行かなきゃいけないんとちゃうん?」

「あ、せやった。ほな行ってくるで!…竜崎、うちの学園祭、いっぱい楽しんでな」

「はい!ありがとうございます!モノマネもがんばってくださいっ」


去っていく一氏を桜乃は小春と見送った。一氏の姿が見えなくなると、小春は「ところで…」と桜乃に話しかけた。


「財前ちゃんとは会えたん?桜乃ちゃん」

「えっ…」


財前の名前に桜乃はドキッと胸を鳴らす。
今日、桜乃はいろんな場所に行ってテニス部のレギュラーたちに会ってきたが、財前の姿は一度も見ていなかった。


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