キリリク

□人魚姫
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(うわぁ…大きな船)


海を泳いでいた桜乃は、とても大きな客船を見つけた。



(こんな大きな船に乗る人は、きっと『お金持ち』な人なんだろうなぁ。)



あまりに大きくて立派な船に興味をもった桜乃はしばらくその船を眺めていた。

すると、船の中から一人、人間が外に出てきて潮風を浴びていた。



(…!なんて…素敵な人なんだろう…)


その人間の容貌があまりに美しく、桜乃は目を奪われていた。



「桜乃!何してるの!?人間に見つかったらどうするのよ!!」


「あ…、朋お姉ちゃん」



ぼーっとその人間を見つめ続けていたら、海の中から姉の朋香が現れた。


「さっさと海の中に戻るわよ!」


「あ、うん…。待って、」



桜乃はもう一度人間に視線を向けてから、下半身の美しい尾を上手に使い、急いで姉の後を追い海の底へ戻っていった。









その日の夜。

桜乃はあの船の上の人間がどうしても気になって、もう一度あの船を捜そうと海上に向かっていた。


(波がすごい荒れてる…嵐かな)


海上に近づくにつれ波の荒れがひどくなっていく。


「ぷはっ…、きゃーっやっぱりすごい嵐!!」


海上に顔を出すと、激しい雨と風が桜乃を襲った。



「あの船、どこだろう…大丈夫かな」



雨と風のせいで視界が悪い。

桜乃は海上を泳いでいくと、人間の叫び声がいくつも聞こえた。


「何だろう…?」



声のする方へ進んでいくと、そこには昼間見た船が沈みかけていた。

海に落ち、流されていく人間もいる。



「!!」


(あの人!!)



船の上で見た、あの人間が波にさらわれている。



(助けなきゃ!!)


桜乃は急いで彼のそばまで行き、彼をしっかり抱いて岸に向かって泳ぎ進めた。









「大丈夫…かな…」


桜乃が
岸にその人間をあげて、生死を確かめる。


(よかった…、生きてる…)


桜乃は安心して、人間の頬に手をあてた。


「本当に、きれいな人…。」


近くで見ると、よりその端麗さがよくわかった。



「…ん…誰だ…?」


「…っ!」



その人間が目をあけて、桜乃の瞳を見つめる。



(ど・ど・どうしよ〜〜〜!逃げなきゃ…なのに)



見つめられて、体が動かない。
ドクン、ドクンと、いつもより早い鼓動だけが聞こえている。



「お前が、俺をここまで運んだのか…?」


人間は起き上がって辺りを見まわす。


桜乃の下半身は海につかっているままなので、人魚だとは気づいていないようだ。



(早く逃げなきゃ…)


桜乃が内心慌てているときに、人間は桜乃の頬に手をあてる。



「お前のおかげで助かった。感謝するぜ。…俺は跡部景吾。この国のキングだ。お前は?」


「あ、の、私…、行かなきゃ…」


「アーン?キングである俺様が先に名乗ったんだ。名くらい名乗れ」


「さ…、桜乃です…。」


「桜乃か、いい名前だ。…美しいお前によく似合ってる」


「!!!」


う、美しい!?


突然の言葉に桜乃は真っ赤になって伏し目がちになった。


跡部はそんな可愛らしい少女に目を奪われる。



「お前…、俺のものになれよ」


「えええ!?」



桜乃が驚いて跡部を見ると、熱い視線とぶつかって動けなくなる。


それをいいことに、跡部は桜乃にキスをせまった。



(だ、駄目!!だって私は…)



「っ!おいっ……!?」



なんとか力をふりしぼって、桜乃は海の中へもぐっていった。



「……人魚?」


桜乃が海にもぐるときに、確かに見えた美しい尾に、跡部はしばらく呆然としていた。



(桜乃……か)


跡部は自分の命を助けた可愛らしい人魚に、完全に心を奪われていた。







(もし…、もしも私が人間だったら…)


彼を受け入れられたのに。
彼のものになれたのに。


「跡部、さん…」


深い深海までもぐった桜乃は、さっき知った青年の名をつぶやく。


桜乃もまた、美しく気高いあの青年に心を奪われていた。




「人間に…なりたい」



桜乃の意思は固まった。




人間になって、彼に会いに行こう…。






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