キリリク

□条件を逆手に
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…都内に住む二歳年下の桜乃という少女。
俺とは違い、純粋で無垢な娘だった。
まるで真逆な、俺と桜乃付き合い始めたのは3ヶ月前。
桜乃から俺に好きだと伝えてきて、俺はそのまっすぐな想いに応えた。
好みのタイプとは違うけど、俺は桜乃のそばにいるのが心地よかったんじゃ。
ずっと、そばにいたいと思える程に。




「なあ桜乃」

「何ですか?仁王さん」


部活がない日曜日。
俺は桜乃を自分の部屋に呼んだ。
まったりとくつろぎながら俺は桜乃のみつあみをいじりながら声をかけた。


「…そろそろ俺のことを、『雅治』って呼んでみんしゃい」

「え…!!」



前から思っとったことだが付き合って3ヶ月経つのに、未だ『仁王さん』と苗字で呼ばれるのはちょっとつまらん。


「でも…あの…その…」


急に言われて戸惑っているのだろう。
桜乃は恥ずかしがり屋だからのう。
簡単には呼べないこともわかっている。
だが俺にも考えがある。


「…次から苗字で呼ぶたびキス一回じゃ」

「えええ!?」


わりと強引な条件。
名前で呼ぶのが恥ずかしいか、キスが恥ずかしいか。
どっちを選んでも俺は構わないけれどな。


「ほ〜ら、呼んでみ?」

顔を近づけて催促すると、顔を真っ赤に染めて眉を八の字にして困った顔になった。


「さーくーの」

「う……ま、雅治さん…」

「…ん、」

やっと呼んだので俺は微笑んで、良くできました、と桜乃の頭を撫でた。

やっぱ名前の方がいいのう、なんてしみじみ余韻に浸っていると、桜乃が服の裾を掴んで頬を染めながら上目遣いで見つめてきた。


「じゃ、じゃあ…あの」

「ん?」

「キ…キスされたいときは…『仁王さん』って呼べばいいですか?」

「!」


何を言うかと思えば…。
この娘はほんとに…俺のツボを押さえてくるというか。

桜乃の可愛い発言に動揺したが、いつものように隠して桜乃の頬に手を添えた。


「そうじゃな…、ちなみにさっきのもカウントさせてもらうぜよ」

「…えっ…!?」


そのまま桜乃の唇を奪って、少しだけ長く口づけを続ける。
桜乃は最初少しだけ体を固くしていたが、やがて力を抜いて俺に身を任せていた。


「……ん」

「…っはあ、…」


唇を離すと、桜乃は俺の胸の中にへなっと倒れこんできた。
俺は小さなからだを優しく抱きしめながら唇を
耳に寄せた。


「…次、苗字で呼んだらもっと深いのじゃからな?」

「…う、うっかり呼んじゃいそうです…」

「早く慣れんしゃい」

「はい…雅治さん…」


桜乃は素直に返事して、ちゃんと俺の名前を呼んだ。
そんな様子に俺は頬を緩ませながら胸にしがみついている桜乃の背にまわした腕の力を少し強める。


「に…」

「?」


俺の腕の中でふいに桜乃が口を開いた。


「仁王さん…」

「…桜乃?」


言ってるそばから…と半ば呆れていると、桜乃は顔をあげて少し潤んだ瞳で俺を見つめてきた。


「もう一回…してほしいです…。もっと、深いの…」

「…!!」


『何を』なんて聞かなくても当然わかる。
まったく…何て娘じゃ。

わざと、『仁王』と呼んだ。

…キスをしてほしくて。


「ほんっと、お前さんは…可愛すぎる…」


今度こそ動揺を隠す余裕もなくて、そのまま唇を奪い、宣言どおりさっきより深いキスを交わした。

…俺が出した条件を逆に利用しておねだりしてくるなんてな。
基本は恥ずかしがり屋なくせに、唐突にこんなことをされると動揺が隠せない。
ほんと、こんなの詐欺師の名が泣くぜよ。

…まぁいいか。
たまには、『負け』でも。

…こんな『負け』なら、悪くない。


どうせならとことん味わってやろう、と…

しばらくの間、離してなんてやらなかった。




【条件を逆手に】

(純粋な天然少女のクセに、なかなかやるのう。…だから惚れたのかもな)





end

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