キリリク
□白雪姫
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「鏡よ鏡。世界で一番美しいのは誰なのですか?」
「そりゃ王妃に決まってるだーね」
ある国にそれはそれは美しい王妃がいた。
彼女は観月王妃。
王妃は自分が世界で一番美しい女性であると信じていて、それを魔法の鏡で確認することが好きであった。
「んふっ、まあ当然でしょう」
「…ってつい最近までは思ってただーね。」
いつもと違う鏡の言葉に王妃は怪訝な顔をする。
「…どういうことです?」
「このごろ成長してきた桜乃姫が随分美しくなっただーね。王妃を抜かしただーね。」
「何ですって!?」
鏡には観月王妃の義理の娘である桜乃姫ね姿が映し出される。
ものすごい形相で鏡を睨み付ける王妃。
「でたらめを言うのでしたら割ってしまいますよ…!!」
「ま、待つだーね!俺は嘘がつけないだーね!真実しか言わないだーね!」
無論、そんなことは王妃も知っている。
だからこそ余計怒りが込み上げてくるのだ。
「僕よりも…あんな小娘が美しいだなんて…!」
王妃は近くにある花瓶を手に取り、大きく振り上げる。
「ちょ、ちょっと待つだーね王妃…」
ガッシャーン!!
(ひっ!)
花瓶は思い切り床に叩きつけられ見事に粉々になり辺りに飛び散る。
鏡は自分に当てられなかったことにとりあえず安心した。
「…あの小娘さえいなければ…」
王妃は恐ろしい形相を崩さずに憎悪の色を瞳に宿す。
(そうですよ…、いなくなってもらいましょう)
「んふっ…んふふふっ」
今宵、怪しく笑った王妃を、魔法の鏡だけが見ていたのだった。
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「桜乃姫」
「あ、裕太さん。こんにちは」
城の庭で花を眺めていた桜乃に、狩人の裕太は声をかける。
「実はですね、桜乃姫に王妃から伝言がありまして」
「お義母さまから?何ですか?」
「森の奥にとても美しい花があるらしく、それを姫に採ってきてほしいそうですよ」
「そうなんですか?わかりました!行ってきますね」
にっこりと無垢な笑顔で快く引き受ける桜乃に、裕太は罪悪感に押し潰されそうになる。
(この子を…殺さなくてはならないなんて…)
狩人である裕太は、観月に特別な命令を受けていた。
それは、誰にも知られぬように桜乃姫を殺害することであった。
「…俺も、お供いたします。姫」
「わぁ、ありがとうございます、裕太さん」
何も知らない桜乃は無邪気に裕太にお礼を述べて、一緒に森に出掛けたのだった。
「どの辺にあるんでしょうね、その花」
「……」
「裕太さん?」
「あっ、な、何ですか?」
二人が森に入ってしばらくの時間が経つ。
桜乃は裕太の様子が少し変であることに気が付いた。
「どうしたんですか?…ずっと思い詰めたような顔をしていますけど…」
「いや…」
桜乃が心配そうに覗きこむと、裕太は更に表情を曇らせた。
(やっぱり…俺には無理だ!)
「逃げてくれ桜乃姫っ!!」
「え?」
いきなりの裕太の言葉に桜乃は意味がわからなくて裕太に聞き返す。
「どういうことですか?」
「姫…、俺は王妃にアンタを殺すように命じられた」
「!!…え…」
(お義母さまが私を…?)
驚きとショックで呆然としている桜乃に裕太は言葉を続けた。
「でも俺はアンタを殺せない!だから逃げてくれ…。」
「ゆ、裕太さん…」
桜乃は突然すぎる出来事に頭の中がめちゃくちゃになっていたが、
「わかりました…、私はこのまま森の奥に逃げます」
自分が城に戻れば、再び王妃は自分を殺そうとするだろうし、何より命令を聞かなかった裕太も罰を受けることになるだろうと考えた桜乃は、裕太の言う通りにすることを決めた。
「悪いな…、姫…」
「いいえ、…教えてくださってありがとうございました裕太さん。」
「…、できるだけ遠くに、逃げるんだぞ」
「はい…では、裕太さんもお気をつけて」
「ああ…」
そう言って二人は別れ、桜乃は更に森の奥に入っていった。
(無事に、逃げてくれよ…姫)
自分には何もできない無力さを感じながら、裕太は振り向いて桜乃の後ろ姿が見えなくなるまで見守っていたのだった。
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