キリリク

□悩殺彼女。
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暑い夏。
ホラー映画の季節。
まあ俺の場合は一年中いつだろうが気になったのがあれば観るから、別にホラー映画自体は特別なことじゃない。
だけど今日はある意味で特別だ。




「きゃーーーーっ!!」

「……」


隣でうるさい悲鳴をあげている女、竜崎桜乃は俺の彼女だ。
今は夏休み。
今日は俺の部屋に桜乃が来ている。
特にすることもなかったんでホラー映画観るかと聞いたら、最初はためらってたがやがて決心したようで「観ます!」と言うから、部屋を真っ暗にして観始めたわけだが。



「おい、桜乃…服の裾がのびる」

「あっ、す、すみません…」


ぎゅううっと俺の服の裾を引っ張りながらつかんでるからそう言うと、桜乃はぱっと手を離した。

チラ、と桜乃の様子を伺うと怯えながらも画面から目が離せないみたいだ。
怖いもの見たさというやつか。


「ひ、日吉さん…」

「…何だ?」


不意に桜乃が話しかけてきたから、視線を向けたら桜乃はうるうると瞳を濡らして上目遣いで俺を見上げてた。


「くっついててもいいですか…?」

「…!」


悩殺… 瞬間的に浮かんだのがそんな言葉だった。
今の、まさにそれだ。
潤んだ瞳に上目遣い、決めつけにそんな甘えるような言葉。
狙ってやったのではないことがまたタチの悪い…。


「ちっ…好きにしろよ」

「あ、ありがとうございます〜〜」


ぎゅうっと俺の腕に抱きついてくる桜乃。

わかってるのか?
ここは俺の部屋だぜ?
俺だって、普通に男なんだぜ?


「きゃああーーーーっ!!」


相変わらず別にそこまでじゃない場面で怖がっている桜乃。
そのたびに密着率が上がるからそっちに気がいって映画に集中なんかできない。

…部屋を暗くして良かったぜ。
赤面しているところ見られたりしなくてすむ。
そんな俺の若干の焦りや照れや動揺に一切気付かない桜乃は、映画に集中してる。

ああ…くっそ。
俺の方だけこんなに意識してることがムカつく。
映画見終わったらいじめてやろう。


ホラー映画で涼をとる?
フザけた話だぜ。
こんな状況、余計に熱が上がるだけだ。
クーラーだって効いてるはずなのに、顔が熱いのはなおらない。

結局俺は映画が終わるまで隣でくっついている桜乃のことで脳内を支配されていた。





【悩殺彼女。】

(ホラーもクーラーも、意味なんかない!)




end
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