キリリク

□君だから、恋をした
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…そもそも、気がつくのが遅かったんや。



携帯の新規メールの作成画面を見つめながら思う。

宛名の欄には『竜崎桜乃』。
本文の欄は真っ白。



1ヶ月前、うちら四天宝寺のテニス部は東京で青学と合同合宿をしていた。


そのとき手伝いで来ていた、青学の顧問の孫娘、竜崎桜乃。

ええ子やんなけどどこか危なっかしいから目が離せなくて…、内気でおどおどしているんやけど話しているうちに時折笑顔を見せてくれた。

もっと仲良くなってみたい…ちょっとした興味で、アドレスを聞いた。


せやけど、それだけや。


合宿なんてたかだか数日。
すぐにまた、大阪に戻るんやし。


せやから俺は、ただ東京に女友達を作った、みたいな感覚で。

それ以上の気持ちなんてあるはずないって。




…そう、決め込んで、そのまま大阪に帰った。





「アホやな…、俺」




この1ヶ月間、ふと気がつけば俺は無意識に竜崎のことを考えていた。


メールも、毎日とは言わないけどかなり頻繁に送っていた。
…俺のこと、忘れてほしくなくて。


竜崎のことを考えるたびに、会いたいって…また、あの笑顔が見たいなんて思っていた。




ほんまに、遅かった。
自業自得やってわかってる。


最初からずっと、否定してたから。


…合宿が終わったら会うこともない。
恋に発展することはない相手やって。

優しくてええ子で、好意はもつけど、でもそれは恋なんかやないって。

…好きになるはずない、って。




だってほんの数日間、ちょっと一緒にいただけやで?
しかも住む場所は離れている相手で。
普通は好きになんてならないって思うやろ。

たとえ結ばれたとして遠距離恋愛になることは最初から決まっている相手を、わざわざ好きにならんわ、…普通は。





…そう思っとったんや。

アホな俺は。




それでも、

竜崎がええんやってこと


今になって気付く。



会えなくても、遠恋になってでも、俺は竜崎がええ。




『普通は…』なんて通用しない。

考えれば当然のことやった。
特別やから『恋』になるんや。



あの短い間で、俺は竜崎に恋に落ちていた。

…それが、事実。




白紙のメールに、俺は文字をうち始めた―…。






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