キリリク
□頂点の使命
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青く澄んだ空に、眩しい太陽。
まだ静かな氷帝学園中等部のテニスコートに、独特なフォームで壁打ちをしている青年が1人。
本日、氷帝学園テニス部は他校を招き練習試合をする予定になっている。
その青年…日吉若は早く来て、誰もいないテニスコートで1人自主練習をしていた。
この練習試合は三年のレギュラーたちが抜けて…日吉が氷帝テニス部の部長を引き継いで初めての試合である。
負けられない試合、日吉はいつも以上に気を引き締めて、精神を高めていた。
「おー、やってるやってる」
「相変わらず、真面目なヤツやなぁ」
「………」
聞き覚えのあるような声が日吉の耳に入るが、無視を決め込んでいるのか日吉は練習をやめずそちらを見ようともしない。
「おい、二人とも。練習の横やりを入れるような真似はやめとけって」
「アーン?ほっとけよ、宍戸。この程度で集中力が切れるようじゃあいつもまだまだってことだ。なあ?樺地」
「ウス」
(………むかっ)
なおも聞こえる声に、日吉は見なくても誰が来ているかわかってはいたが、そう言われてはむしろ練習をやめるわけにいかないので、相変わらず独特なフォームで壁打ちを続けていた。
「ほな、日吉は自主練を邪魔すんのもなんやし、俺らとあっちに行ってようか、…桜乃ちゃん」
「はい」
───すかっ
予想外の人物の存在に動揺を抑えきれず、見事に空振りをしてしまった日吉。
「お?空振ってんぜ日吉のヤツ!」
「カッコ悪いなぁ」
「〜〜〜〜っ、あんたら…」
ついに我慢が切れたのか、日吉はずっと声が聞こえていた方を睨んで、改めてその存在を確認しつつ怒鳴った。
「なんでここにいるんですか!」
「すっ、すみません〜〜〜!」
「うわ、かわいそ。そんな怒ることかよ」
「せやで、桜乃ちゃんはただ日吉の応援に来ただけやろ」
日吉の怒声にビクッと肩を縮めて慌てて謝る桜乃。
それを慰めるように忍足がそっと桜乃の肩を抱いた。
「〜〜桜乃には言ってない!すでに引退してるはずの先輩たちに言ったんです!…っていうか、その手を離してください、忍足さん」
つかつかと彼らに近づいて、日吉は忍足の手から桜乃を奪うように自分のもとへ引き寄せた。
「桜乃も…、なんでここにいるんだ?」
日吉の声音が少しやわらかくなる。
それはそのはず、その少女、竜崎桜乃は日吉の最愛の恋人であるからだ。
「ごめんなさい…、日吉さんの応援したくて来ちゃいました」
「………、じゃあなんでこの人たちといるんだ?」
「あ、それは…」
「氷帝学園の付近でキョロキョロうろうろしていた挙動不審な女がいたから、俺様たちが保護してやったんだ。何か文句あるのか、アーン?」
わざわざ桜乃の肩を抱き寄せながら、跡部が日吉の問いかけに答えた。
日吉はイラっとしながら、桜乃の腕を引いて再び自分のもとへ戻してから今度は跡部を含めた自分の先輩に向かって問いかける。
「で、先輩たちはなんで来たんですか」
「もちろん、俺様たちが抜けてお前らがちゃんと氷帝の名にふさわしい試合ができるのか見極めにきたんだ」
「そういうことだ。今日は日吉が部長になって、長太郎もシングルスになって初の練習試合だろ。ここは先輩として応援に来るのが普通だと思ってな」
「…では、なんでこんな早くに来たんですか。」
「それはいつもみたいに日吉が早く来てると思ったからや。部長になって余計気を張ってるんやろから、緊張をほどきに」
「緊張なんてするわけないじゃないですか。心配されなくても、ちゃんと氷帝らしく勝ってみせますよ」
「うわっ、かわいくねーヤツ。応援に来てやってんだからもっと喜べっつーの」
「あれ?先輩方?」
相変わらずの日吉の態度に向日が戒めていると、さっきまでいなかった人物の声が新たに加わった。
「よお、長太郎。」
「おはようございます宍戸さん。それに先輩方、どうしたんですか?皆さん集まって」
「お前らの応援にきてやったんだぜ」
「うわっ、本当ですか?ありがとうございます!」
「おー、鳳は素直やなぁ。誰かさんと違って」
日吉とは対照的な鳳の態度に、ふん、と鼻を鳴らす日吉。
「日吉さんも、せっかく先輩方が来てるんですから…素直に喜べばいいのに」
「悪かったな。喜べなくて」
「わ、悪いだなんて言ってないですよ」
桜乃にまでそう言われて、機嫌を悪くする日吉に、桜乃が慌てて弁解する。
「竜崎さんも来てくれたんだ?」
「あ、はい。鳳さんも頑張ってくださいね」
「うん。ありがとう」
にこやかに交わされている、鳳と桜乃のやりとりにも日吉はムッとしてしまう。
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