ドキサバ編
□Pure..boy & girl
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「うーん…どこだろう…」
桜乃はがさがさと草むらをかきわける。
「もぉ〜〜、ヘアピン落としちゃうなんて…私のバカ…」
いつも桜乃が前髪をとめるのにつけているヘアピン。
忙しく走り回っているうちに、髪からはずれて草むらに落としてしまった。
桜乃は必死に探すも、小さいものなので、なかなか見つからない。
「はぅ〜…、諦めるしかないかなぁ…」
(結構お気に入りだったんだけど…見つからないなら仕方ないもんね。)
「何してるん?」
「きゃっ!?」
桜乃は突然頭上から聞こえた声に驚き、見上げると、豹柄のタンクトップを着た少年が桜乃を見おろしていた。
「あ…、遠山くん」
四天宝寺中1年遠山金太郎。
リョーマが東のスーパールーキーならば遠山は西のスーパールーキーと呼ばれるほどの実力をもつ少年である。
人懐っこい笑顔に人見知りをしない性格で、同学年ということもあり、引っ込み思案の桜乃が気軽に話せるうちの一人である。
「えっとね、草むらにヘアピンを落としちゃって探してたんだけど見つからなくて…」
「ヘアピンー?この辺に落としたん?」
「う、うん…」
「よっしゃ!ワイが見つけたるでぇ〜!」
「えっ!?」
金太郎は張り切ってキョロキョロ辺りを見回す。
「で、でも遠山くん…」
「大丈夫やって!任せときぃ」
もう諦めようとしてたところだということを伝えようとした桜乃の言葉を、金太郎が遮る。
相変わらずしゃがまずにキョロキョロしながら草むらを進んでいく金太郎。
「おっ!」
金太郎がある一点に飛び込むように駆け寄りそこの草むらをゴソゴソとかきわける。
「遠山くん…?」
「あったでぇー!これやろ?」
「…! あっ…」
金太郎が持っていたのは紛れもなく桜乃が着けていた花のヘアピン。
「すごーいっ!それだよ!」
「良かったなぁ、見つかって」
「うんっ!ありがとう!遠山くんのおかげだよ!」
満面の笑顔で金太郎にお礼を言う桜乃。
桜乃のあまりにも輝かしい笑顔にちょっとドキドキしてたじたじになる金太郎。
はたから見たら可愛らしいカップルに見えるだろう。
「た、たいしたことあらへんって」
「ううん!そんなことないよ!上から見渡しただけでこんなちっちゃいのを見つけちゃうなんてすごいよっ!」
「そーか?別に普通やと思うんやけど…」
「ううん!ほんとにすごいよっ!」
とにかく嬉しそうに褒めまくる桜乃に金太郎は照れくさそうに頭を掻いた。
「竜崎〜、ちょっとじっとしてて」
「え?」
金太郎は桜乃に近づいて見つけたヘアピンを桜乃の髪の毛にとめた。
「あ…」
「そのピン、似合っとるんやから、もう落としちゃアカンでぇー!」
にっと無邪気に笑いながらそんなことを言う金太郎に、今度は桜乃がドキドキしてしまった。
「う、うん…」
「よっしゃ!ほな、ワイもう行くなぁ〜」
「うん、またね」
ばたばたと陽気に駆けていく金太郎の後ろ姿を見ながら、桜乃はそっと髪についているピンに触れる。
不器用に、あまり意味をなさないところにとめられたヘアピン。
だけど…
(このままで、いいかな…)
まだ幼さが残る少女と少年の中に生まれた小さな気持ちは、
まだ本人たちは気付いていないのだろう。
【Pure..boy & girl】
(あっ!でもちゃんととめないとまた落としちゃうかも…)
end
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