ドキサバ編

□器用な彼の不器用な気持ち
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「手塚先輩っ」

「ん?…竜崎か」

「昼食の準備ですか?お手伝いします!」

「ああ…頼む」


無人島でのサバイバル合宿にも、皆慣れ始めた三日目の昼。
当番制である食事の準備。今回当番なのは、青学テニス部部長である手塚だった。

桜乃は手伝いを申し出て、手塚と桜乃は一緒に昼食の準備し始めた。


桜乃は横で魚をおろしている手塚をチラ…と見上げる。


(手塚先輩って…すごいなあ。何をしているときもクールで落ち着いてるし…)

「何だ?」

「あっ、いえ、その!手塚先輩、器用だなって!」

(見とれてた…なんて、言えないよ〜〜っ!)



視線に気付いて、桜乃を見る手塚。
桜乃は恥ずかしさに顔を赤くしながら慌てて弁解をする。



「俺は、…器用ではない」

「えっ?先輩器用じゃないですか。何でもできるし…」

「……。」

「??」

「…このキノコ、炒めてくれるか?」

「あ、はい」


『?』を浮かべていた桜乃に、手塚は話を逸らすようにキノコがのった皿を渡した。

桜乃は素直に手塚に言われた通りキノコを油をしいたフライパンで炒める。



「えっと、取り皿…あつっ!!」

「竜崎!?」


炒め終わったキノコをのせる皿を取ろうとした桜乃は誤って熱されたフライパンに触れてしまった。



「すぐに冷やすんだ」

「あ…」


手塚は桜乃の手をとり、流し場でフライパンに当たったところを水をかけて冷やす。


(…手塚先輩のこんな表情…初めて見た)


手塚は焦っているような顔で桜乃の手を冷やしている。


「念のために手当てを」

「えっ?そんな…大丈夫ですよ。ちょっと当たっただけですし、水ぶくれにもなってないし…」

「いや、油断は駄目だ。これから腫れるかもしれない」

「は、はあ」



そう言って手塚は桜乃の手を手当てをしていく。

手当てが終わった後桜乃は手塚にぺこりと頭を下げる。


「ありがとうございました、先輩」

「いやいい…、今後は」

「はい。油断せずに、いきますね!」

「…ああ、そうしてくれ」


にっこりと笑った桜乃に、手塚もほんの少しだけ表情を緩めた。



そして再び準備を再開する手塚と桜乃。

桜乃は作業をしながらこっそりと思った。


(手塚先輩もあんなに必死な顔をするんだな…)


普段は見られない手塚の一面を思いだす桜乃。


(私のことをすごく心配してくれて…、手塚先輩って…すっごく、優しい人なんだなあ!)




桜乃は気付いてはいなかった。

些細なことで冷静な手塚をすっごく焦らせることができるのは、桜乃だけだということに。




これから先、超絶鈍感な桜乃が桜乃のことに関してだけ不器用な手塚の密かな想いに気付けるか気付けないかは、今はまだ誰にもわからない。




【器用な彼の不器用な気持ち】

(だけどなんだかいつもと違った手塚先輩にドキドキしちゃったなんて…誰にも言えないっ!)




end

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