ドキサバ編

□関わったら最後
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なんやねん、ほんま。



目の前にはキョロキョロとしながらおそるおそる前に進んでいるおさげの女。
その不審な動きに俺は呆れながら少しの間その様子を見ていた。


俺にどないしろっつーねん。



「…おい」

「っ!!」


仕方ないから声をかけてみるとびくーっと肩を揺らして、そろーりとこっちを振り向くおさげ女。


「…ひ、一氏さん」

「何してんや、こんなところで」

「あ、あの、えっと…」



どもりながらうつむいているおさげ女こと竜崎桜乃はこの無人島合宿に祖母の手伝いとしてついてきた女。

…せやけど、船の事故でその祖母とははぐれ、今は俺ら選手たちと一緒にサバイバル生活をしている。

竜崎は青学の生徒やけど、他の学校のやつらともまあ仲良くやっているみたいや。
内気でおとなしいけどええ子やで〜ってうちの連中も言ってたし。

せやけど俺には小春がいるし、女と特別関わる必要もないと思い、俺から話しかけたことはない。
話しかけられたことも、練習中に水や冷やしタオルを渡されるときくらいで、ちゃんと会話をしたことはない。


会話っぽい会話は、今が初めて。



「…ボール、探してて」

「ボール?」

「気付いたらここに…」

「…は?」


竜崎の答えに俺はより呆れる。


「…ここ、合宿所から結構離れてるで。…ボール飛ばへんやろ、ここまでは」

「えっ!そうなんですか!?どうりで見たことがない道だと…」

「……」

「ひ、一氏さんは…どうしてここに?」

「俺は探索の当番。こっちら辺の担当やったから。もう合宿所戻るとこやけど」

「そうでしたか。お疲れ様です」

「…ああ」

「あ、あの…」

「…何や?」

「ご、ご一緒しても…いいですか?」

「……」


なんとなく、そうなる予感がしたわ。
なんせ竜崎は手塚に合宿初日のミーティングで、筋金入りの方向オンチやから1人で合宿所から離れないようにって言われてたし。

そんな女をここで1人ほっとくのはさすがに気がひける。

俺は小さくため息をついて合宿所に向かって足を進めた。


「あ…」

「はよ戻るで」

「! は、はい」



とことこと竜崎は俺についてきて、隣に並ぶ。



「誰のボール探してたんや?」

「あ、えっと…皆さんのです」

「皆さん?」

「夕方にボールを森の方に飛ばしてしまうと暗くなって見つからないから次の日明るくならないと探せないんです。それで、昨日の夕方にボールなくされた方が何人かいたんで、探すのを手伝ってたんです」

「…ふうん。」


『ええ子』な。
評判通りってことか。
まあ関わってなくても、働いてるところは見てるから、知らんわけやなかったけと。



「で、ボールは見つかったんか?」

「あ、2つありました」


竜崎はポケットからボールを取り出して見せる。


「そんで、残りを探してる途中に何故かあんなところにいたわけか」

「う…」

「どんだけ方向オンチなんや、お前」

「す、すみません…」


しょぼーん、と小さくなる竜崎。
いや、別に俺に謝ることでもないと思うんやけど。



「あ、だから、一氏さんが来てくれて本当に助かりました!」

「は?」

「だって気付いたら見たことがない場所にいたから…あのときの一氏さんは天使様に見えました!」




……。


…天使様ぁ?




「ぶっ、はは!何やそれ」


俺が天使様って。
どんな発想やねん。


「ええ?笑うとこですか?」

「天使とか、ないわ」

「えええ〜?」


想像するとほんまキモいわ。
俺が天使とか。
あ、でもコントでやるのはアリかもな。
小春のが絶対似合うけど。


「と、とにかく!一氏さんがいなければ、私合宿所まで戻れないところでした。ありがとうございました一氏さん!!」

「っ!」


両手をとって笑顔でそう言われて、思わず固まってしまう。

…な、なんや…この感じ。

心臓が、やけに速く鳴っとる。



「一氏さんは私の天使様です!」

「ぶふっ!」


そこは変わらんのかい!

なんや、こいつ。
おもろいわ。





あーあ、こいつとは関わらんやろうなと思っとったのになあ。

別に関わったことに後悔してるわけやない。



せやけど、やけに速くなった心臓の音…そのときのわけわからん気持ち。

今までにない何かが、俺の中に生まれてしまうような予感がしてならなくて。



それでも…、話していて楽しいとか、もっと話をしたいとか…感じてしまった俺は、


もうきっと、竜崎と関わる前みたいな俺には戻れないんやろうな。




【関わったら最後】

(一気に興味がわいてくる。ほんま、なんなんやろ…)




end
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