お題

□あいたくてたまならない
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「……」


じー…っと携帯を眺める。
画面に表示されているのは跡部さんの名前。



今は秋。
秋…行事が多い季節。


氷帝学園という大きな学校の生徒会長である跡部さん。

多忙も多忙。


休む暇なんてないくらいに、氷帝の頂点として目まぐるしく働いている。



当然、私と会える時間なんかない。


私だってそんなことわかっている。


わかった上で、私は跡部さんと付き合っている。


大丈夫、ちゃんとわかってる。

わかってる、わかってる…。



「はあ…」



声だけでも…聞きたいな。


…なんて。



わがままだよ…。



他にもたくさん憧れている女の子がいる跡部さんと付き合えるだけでも幸せなことなのに。


わがままなんて…。


駄目だって。




駄目…


──ガチャッ

「桜乃ー」

「っ!?」


ぽち。


あ…



「お母さんちょっとお買い物に「きゃあああああっ!」


押しちゃったぁああーーー!


どどどうしよ、どうしよ!?

切らなきゃ!?

き、切らなきゃ!!


ぶちッ!


「お留守番よろし「あああああっ!!」



切っちゃったあああーーー!!



「お母さんのバカーー!!急に入って来ないでよー!!」

「何なのよ。とにかくお母さんちょっとお買い物してくるから留守番頼んだわよ、桜乃」



そう用件だけさらりと言い残し私の部屋から去っていくお母さん。



十秒くらいフリーズしてから、落ち着いて、落ち着いてさっきのことを振りかえる。



え、えっと…


携帯で電話帳の跡部さんのページを出していて(ボタン一つで発信してしまう状態)



迷ったすえに電話を諦めようとしていた



お母さんが急に部屋に入って来てびっくりして勢いでボタンを押してしまい(一瞬放心、その間に呼び出しが始まる)



パニックになってつい電話を切ってしまった(跡部さんの携帯にはばっちり私からという着歴がのこってしまっている)



つまり、私は…


用がないのに電話をかけ、更にほぼワン切りと同じようなことをした、と…。


わああああっ!!
た、ただのイタ電だよね!?これって!!


いやああ〜〜っっ!!
どうしよう!!


メ、メール!

そうだ!メールで弁解しよう!

さっきのは間違えただけですって!


チャララ〜〜♪


「きゃーーーっ!?返ってきたっ!!」



跡部さんの名前が表示され、着信を告げるメロディが流れる。


どうしよ…

出なきゃだよね!?

跡部さんからのまで切っちゃったら私本当に何なんだってかんじだもん!



「は、はい…」

『さっきのは何だ?』


さ、早速ですか…。

そりゃそうですよね…。


うう…いい言い訳が見つからない…。


「あ、あのですね。ちょっと誤ってボタン押しちゃって…その、だから、間違いで…」

『…間違い?』


できるだけ簡潔に、伝えた。



簡潔すぎるくらい、簡潔に。



『お前は誤ってボタンをおすと俺に電話できるのか?随分と器用じゃねえか。アーン?』

「うっ…」


簡潔すぎた。

そのせいでイタイところをつかれて言葉が詰まってしまう。




『誤ってボタン押したくらいで俺にかかってきたということは、…俺の名前を表示していた、と。そうだな?』

「うう…」


バ、バレてる…。

…なんて説明すればいいんだろう…。


…正直に言う?



『俺に電話かけようか迷ってたんだろ?…何かあったのか?』



無理だよ…。

わがままだって、嫌われちゃう。


「いいえ…何も」

『………』

「ほ、本当に間違えただけなんです」

『………』

「ごめんなさい…跡部さん、お忙しいのに…」

『……理由はそれか?』

「え?」



何の?と思ったのも束の間。



『俺に遠慮する理由だ』

「!!」



見透かされた気がして、びくって体が硬直する。



『言いたいことがあるんだろ?』

「そ、んな…」

『『俺様が忙しい』が理由で、電話をかけられなかったんだろ?なら俺様が『いい』って言っているんだ、遠慮する必要もねえだろ』



遠慮、なんて…そんなんじゃない。



『言えよ』



わがままな子だと思われて、跡部さんに嫌われたくないって…ただの自分勝手な理由なのに。



『…桜乃』



優しい囁き。

わがままさえ…許される気がして。



「……たい…です」

『あん?』



私…欲張りだ。

電話かける前は、声だけ充分…って思ってたはずなのに。



「会いたい…です」



跡部さんに、会いたい…。

困らせちゃうってわかっているのに、口が勝手に言葉をつむいでしまう。


言葉に出して言うと、さらにその想いが強くなった。


『…お前、今家か?』

「え…?は、はい。家です」

『30分、そのまま家で待ってろ』


──ブツッ…ツーツー。


「……ええ?」


聞き返す前に電話が切れて、繋がっていない電話に向かって間抜けな返事を返してしまう。


家で待ってろ…って


もしかして…?




しちゃいけないとは思ってはいるのに私は期待を胸に秘めて、30分後に再び携帯が鳴るまで、部屋でそわそわしていたのだった。




【あいたくてたまらない】

(『もしかして』なんて…自惚れかな)





end

配布元:「確かに恋だった」様

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