最強チーム編

□初めての練習試合
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よく晴れた土曜日。
河川敷沿いのテニスコートには、三人の少年と一人の少女の姿があった。


桜乃がリーダーであるこのチームは今日、初の練習試合を行うことになっている。


「で、今日はどのチームとやるんだ?」


いっちに、いっちに、と伸脚をしながら切原が桜乃に尋ねる。


「今日はですね…んと、聖ルドルフの観月さん、柳沢さん、それと青学の乾先輩と桃城先輩のチームです」

「ふうん…桃先輩と乾先輩のチームね」

「んー強いやつとやりたいわあ」


ぽーん、ぽーんとラケットの真ん中でボールを弾ませているリョーマ。
その横で金太郎はのびー、とストレッチをしていた。


「それでね、試合形式はダブルス、シングルス2、シングルス1の順番で行われるんだけど…」

(よく考えるとみんなシングルスプレーヤーなんだよね…)
個性の強い面々が集まったこのチーム。
どう見ても男三人はシングルスが向いている。

となると、問題はダブルス…。


「まず、ダブルスを決めましょう」


桜乃の呼び掛けに皆は少し悩む仕草をみせる。
全員、シングルスはめちゃくちゃ自信はあるのだがダブルスとなると、話は別。

誰と組むかが大きな要因になる。



「竜崎はダブルスの方がいいんじゃない?」

「え?」

「あーそうだな、それは俺も思うぜ」

リョーマと切原は珍しく同じ意見を出す。


「どうやったって男子と女子じゃやっぱ実力が違うんだし」

「ダブルスならもう一人がフォローできるだろ」

「あ…」

(そっか…)

桜乃も二人の言うことに納得する。
桜乃がシングルスで勝ち目のない相手でもダブルスで彼らのうち誰かと組めばわからないかもしれない。

それだけ、皆が実力をもっている。



「でも…いいのかな…?そんな理由で、私がダブルスでも…」


組んだ相手に確実に迷惑をかける。
それでも、いいの…?


「ええんちゃう?」

「え…?」


屈託のない笑顔でにこーっと笑う金太郎。


「ワイらチームメートなんやで、竜崎!助け合うんが普通やん!」

「遠山くん…」


その笑顔に安心感を覚えて、桜乃は金太郎に笑顔を返していた。



「なーんかいいとこもってかれた気がすんだよなぁ…」

「…そうっスね」


気のせいか…?と切原とリョーマは二人の様子を見ながら微妙な表情を浮かべていた。



「えと…それじゃ、ダブルスのもう一人は…」


桜乃のその言葉に切原とリョーマがピクっと反応する。

ダブルスのパートナーってもしかして…チャンスじゃないか?

桜乃にとってはダブルスのパートナーはかなり頼る存在。
そこでかっこいいところを見せればもしかしたらそのままダブルスじゃなくて別の意味のパートナーになれるたりして…。


「俺、ダブルスでもいーけど」

「俺がダブルスやってやってもいーぜ?」

「えっ?」


同時に申し出たリョーマと切原にキョトンとする桜乃。


「おい越前リョーマ、お前シングルスプレーヤーだろが」

「切原さんもでしょ」

「お前よりはダブルス上手いっつの」

「わかんないじゃないすか、そんなの。」

「わかるっての。だいたいお前年下なんだから遠慮しろ遠慮」

「いやっス」


むむむ〜と睨み合いながら言い合ってるリョーマと切原。
お互い、下心があるってことがわかりきっているからこそここは絶対譲れない。


「えっと…えっと」


二人がダブルスの座を争っている様子を見て桜乃は慌てて声をかけた。


「あ、あの!」

「あ?」

「何?」


桜乃が声をかけると睨み合っている二人は同時に桜乃の方を向いた。


「ごめんなさい…、私のせいで…」

「へ…?」

「何が…」


まさか、下心がバレた…?という心配が二人の中に浮かぶ。


「知らなかったんです…二人が、そんなに…」

「「……(ごくっ)」」


やっぱバレたのか…?と二人が息を飲んで桜乃の言葉を待った。


「そんなに…、ダブルスがしたかったなんて…!」

「「……は?」」


ダブルスがしたかった…?

いやいやいやいや。


ダブルスにこだわっていたわけじゃなくて…。



「私が、ダブルスの枠とっちゃったから…」

「お、おい竜崎…?」

「何言って…」

「私、…私、シングルスで頑張るから、ダブルスは二人で出てください!」

「なっ…!?」

「ちょっ…!?」


二人で…?

二人でって…


まさか、

まさかまさかまさか…


コイツと!?


「えっと…それじゃ私がシングルス2にで、遠山くんはシングルス1でいいかな?」

「ええよー」


切原とリョーマの二人があり得な過ぎる展開に混乱している間に、オーダーはどんどん決まってしまっていった。


「よし、オーダーも決まったし、頑張りましょうね!」

「おー!」

「「……」」



ま、まじで?

もはやすでに決まってしまったようで、今さら反論はしにくい状況。


「ったく、なんでこんなことに…。おい越前、足引っ張るんじゃねえぞ」


「…その言葉、そっくり返すっスよ。」


コイツが竜崎と組むよりはましなのかもしれないし…と無理やり自分を納得させるリョーマと切原。

本当は嫌だけど嫌だけど嫌だけど嫌だけど仕方ない!

切原とリョーマはしぶしぶ宿敵とダブルスを組むことを決めたのだった。



「あ…、あのね、試合の前に皆に渡したいものが…」

「渡したいもの?」


何だ?って顔をしている男三人に背中を向けて桜乃はごそごそと自分のバッグを探って、三つの小さな袋を取り出す。


「これ…」


桜乃は一人ずつ、その袋を渡す。


「ミサンガをね、作ったんだ」

「ミサンガ?何やそれ」

「お守りだよ。こんな風に手首とかに結んでおいてね、切れたら願いが叶うって云われてるの」

「へえー!」

桜乃は自分の手首に結んであるミサンガを見せる。
三人はその袋を開け、それぞれミサンガを取り出した。


「うわ、すげえ。これ本当に作ったのか?」

「はい、簡単なものですけど…」

(簡単なのかよ、これ…)

切原のクラスも女子がミサンガを作って誰かにあげるというのはよくあることなので知ってはいたが、細かく丁寧に編み込まれているミサンガを見て、女子ってすげえな…と思わずにはいられなかった。


切原は赤、リョーマは青、金太郎には黄色がベースのミサンガ。
桜乃自身は薄い桃色のミサンガを手首につけていた。


「これ、どうやってつけるん?」


金太郎は早速手首に結ぼうと試みているがなかなか上手くいかないらしく、手こずっていた。


「あ、私結ぶよ?」


桜乃は金太郎からミサンガを受け取り金太郎の手首に結びつける。


「おおきにな!竜崎!!」

「ううん、私もつけてくれて嬉しいよ」

「「……」」


にこにこ笑い合う二人。
そんな桜乃と金太郎の様子を見て、ミサンガを結ぼうとする手を止めるリョーマと切原。


「竜崎、上手く結べないから結んで」

「あ、うん」

「竜崎、俺も俺も」

「はあい、いいですよ」


ザ・便乗ズ。

桜乃は言われた通り二人の手首にもそれぞれミサンガを結んだ。


「サンキュ」

「ありがとな」

「いいえ、こちらこそ…」

(ありがとう…)

桜乃は三人の手首のミサンガを見て、嬉しそうに笑った。


「よし!まあとにかく勝ちにいこーぜ!」

「よっしゃー!勝ったもん勝ちやー!」

「当然でしょ」

「…うん…!」


こうして、桜乃が率いるチームの初めての練習試合が始まろうとしていた。



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