□みつあみ少女とハンカチーフ
1ページ/3ページ


※「ハンカチーフの約束」の淳視点話です



ある休日、通っているテニスクラブ内でメンバー同士練習試合をすることになった。
僕の試合は順番が遅かったから、少しのあいだ今日は忘れてしまっていた飲み物を買いにコートを出ていた。
飲み物を買ってコートに戻ろうとすると、道でずっと練習試合を見ている長いみつあみの女の子を見つけた。
…テニスをやっている子なのかな?
そのときはそれ以上の感想をもたずに、コートに戻ろうとした…そのとき。


「きゃっ」


前から来た男に一方的にぶつかられて、その女の子が転んでしまった。


「ちっ…気をつけろ」

「す、すみません…」


男は女の子を責めたあと、そのまますたすたと立ち去った。
しかし立ち止まっていた彼女にぶつかったのはどう考えても男の前方不注意だし、彼女がいたのは道端とはいえ通行の邪魔になるような場所ではなかった。
それに、あろうことか女の子を転ばせておいて一方的に責めた上にそのまま立ち去るという神経はどうなのだろう。
そんなことを考えながら僕は転んでしまった女の子に近付いて、覗き込んで手を差し伸べた。
女の子は驚いたように僕を見上げてきた。


「あっ、あの」

「大丈夫?…立てる?手、貸して」


そう言うと女の子は遠慮がちに手を伸ばしてきたので、ぎゅっと握ってから引いて立ち上がらせた。
そしてあらためて女の子を見る。目線は僕よりも結構低くて、たぶん少し年下なんだと思う。
服を確認していると、彼女が履いていたスカートの裾が砂で汚れてしまっているのが見て取れた。

…女の子を転ばせて、服まで汚して、よく平気で立ち去れるよな…。

僕はあらためてあのぶつかってきた男に批判的な気持ちになりながら、ポケットに入っていたハンカチを取り出そうとした。
すると女の子は少し恥ずかしそうに「あ、ありがとうございます…」とお礼を言ってきたので、僕も「どういたしまして」とそれに答えた。


「…服、汚れちゃったね」

「あ、…!」


スカートだから僕が払うわけにもいかないし、ハンカチを渡してそれで汚れを払ってもらおうと思ったんだ。
だけどそう伝えると、女の子はハッとして自分の着ている服を確認していた。
そして汚れているのに気付くとすぐに手で払おうとしたから咄嗟に「待って」と言って彼女を止めた。


「手も汚れちゃうから、これ使いなよ」

「ええっ!でも、」

「いいから。はい」


僕は彼女の手を取ると、少し強引にハンカチを手渡す。
そのときちょうどコートにいる柳沢から呼ばれる声が聞こえたので「今行く」と答えたあと、彼女に「それ、返さなくていいからね。それじゃあ」と一方的に言い残しコートへ向かった。

…すぐあとに「ありがとうございました!」と声が聞こえたのでそれに応えようと一度振り返って微笑んで返した。

返さなくていいと言った通り、ハンカチはあの子にあげたつもりだったし、そもそもあの子とは見知らぬ間柄なんだ。
もう会うこともないと、そのときは思っていた。


.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ