□Present is me!
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「ねえ…朋ちゃん」

「なーに?桜乃」

「もうすぐ…跡部さんのお誕生日なんだけど、プレゼント何がいいのかなぁ」

「ああ…跡部さんね」


桜乃の恋人、跡部景吾の誕生日は10月4日。
桜乃は誕生日を祝いたいとずっと考えているのだが、10月に入った今日、未だ何を贈るか決まらずに迷っていた。



「私が用意できる範囲内で跡部さんが欲しいものなんてあるのかなぁ〜っ」

「そうね。欲しいものはすぐに自分で用意しそうだもんね…跡部さん」


(桜乃があげるものだったら何でも良さそうだけどね…)


跡部が桜乃にベタ惚れだというのは、周りにはバレバレらしい。
もっとも桜乃自身にはその自覚がないようだが。




「そうだ!いいこと考えた!」

「えっ、何?」


朋香が何かを思いついたようで、目をキラキラさせながら桜乃を見る。



「あのね…」



朋香は桜乃にこそっと耳打ちをした。


「…ね?どう?」


ニヤニヤと笑う朋香。

しかし桜乃は朋香の予想した反応はせずに、


「それいいかも〜!」


と、納得していた。


(…あら?)

冗談だったんだけど…と思う朋香をよそに桜乃はいい案ができた対して普通に喜んでいる。


「良かったぁ、決まって!ありがとね朋ちゃん!」

「え、ええ…」


(桜乃、意味わかってるのかしら…)

わかってないわよね…と思いながらもまあなるようになるだろう、と目の前で喜んでいる桜乃を暖かい目で見ていた。




・・・




日は過ぎていき、今日は10月4日。

この日は日曜日というのもあり桜乃は跡部邸に招待されていた。



「お誕生日おめでとうございます、跡部さん!」


大きな玄関先で跡部に会って最初にそう伝える桜乃。
跡部は嬉しそうに目を細めて、「ああ」 と答える。


「これ、ケーキ…作ったんです。よかったら…」


桜乃が差し出したのは1ホールのケーキが丁度入るくらいの大きさのラッピングされた箱。


「お口に合うか分かりませんが…」

「すぐに食う。おい、紅茶を用意しろ!」


ケーキを受け取り、近くにいた使用人に命じた後、跡部は自室まで桜乃をエスコートをした。







「…ど、どうですか?」

「フン、まあまあ美味いぜ」

「そうですか、良かったぁ」


跡部の部屋で淹れたての紅茶を飲みながら、二人は桜乃の手作りケーキを食べていた。


跡部の感想に桜乃はほっと胸を撫で下ろす。



「あの、跡部さん」

「あん?」

「誕生日プレゼントのことなんですが…」


桜乃の言葉に跡部はケーキを食べる手を止めて、桜乃を見る。


「ごめんなさい…何をあげたらいいのかわからなくて、用意できなくて」

「? このケーキがそうじゃないのか?」

「そんな…これだけじゃ、私の気が済みませんよ!跡部さんには、いつもお世話になってるのに…」

「……」


一緒に誕生日を過ごせるだけで充分なんだがな… と思いながら跡部は紅茶のカップを持つ。



「だから…、友達にアドバイスもらって、私にしかあげられないもの、見つけたんです」

(桜乃にしかあげられないもの…?)



何だ…?跡部は紅茶を優雅に飲み、桜乃の次の言葉を待った。




「私にしかあげられない、『私』をあげます!」

「ブッ!!」



あまりに予想外な言葉に不本意にも紅茶を吹き出してしまった跡部。

ごほっ、ごほっ!とむせている。



「だ、大丈夫ですか?跡部さん」

「…ああ…」


跡部はハンカチで口許を吹きながら、なんとか落ち着いて桜乃を見る。


「…何だって?」

「ですから、『私』がプレゼントです!」


「……。意味、わかってんのか?」

「え?」


キョトンとする桜乃。


『私がプレゼント』なんて、普通は誘い文句以外の何物でもない。
もちろん跡部も一瞬でソッチの想像が膨らんでしまっていた。

しかし…。


(わかって…ないだろ)


相手はあの純情天然少女の桜乃である。

そういう意味で言ったとはとても思えない。



「私にできることなら何でもしますよ?」

「……何でも?」

「そうですね…お掃除とか、肩揉みとか、私でもできることなら!思う存分使ってください!」

(…やっぱりな……)


つまり桜乃は、自分を1日使用人にしてくれという意味で自分をプレゼントしたわけであり、案の定不純な考えなんて一切考えていなかった様子。


「さ、跡部さん!何でも言ってください!」

「……」



もう呆れることしかできない跡部。

少し考えてから、跡部はひとつため息をついて席を立ち、桜乃に近づいていく。



「? 跡部さ…きゃっ!?」



跡部は桜乃を抱き上げて、そのまま足を進める。


──ドサッ


「あ、跡部さん?」


桜乃が下ろされたのは、大きなベッドの上。

桜乃はわけがわからないまま、ベッドの上で跡部を見上げる。



「…プレゼントは、お前なんだろ?あぁん?」

「えっ…は、はい」

「だったら…、ありがたくもらっとくぜ」

「? 跡部さん、何を…んっ!?」



桜乃の言葉を遮るように、上から覆い被さって唇を塞ぐ跡部。

長い長いキス。

どのくらい続いたのか…跡部はやっと唇を離し、そのまま耳に直接囁いた。


「先に煽ったのはお前の方だぜ…?覚悟しろよ…」


多少強引に、そういう雰囲気にもっていった跡部。

そして桜乃はキスひとつで翻弄させられ、ぼーっとした頭で跡部の言葉を聞きながら、されるがままになっていた。




【Present is me!】

(その言葉の本当の意味、教えてやるよ)





end

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