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□小さな勇気
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「あの…、楽しかったね?リョーマ君」
「別に」
12月24日。
世間ではいわゆるクリスマスイブ。
この日は、青春学園の二学期の終業式。
リョーマと桜乃が所蔵する男子テニス部、女子テニス部では終業式の後に部活があった。
そして部活の後、男子テニス部は部員の一人である河村の家が経営している寿司屋でクリスマスパーティーを行うことになった。
桜乃は帰りに偶然男子テニス部一行に会い、男テニの面々とそれなりに仲良くしていた桜乃はクリスマスパーティーに誘われたのだった。
「も、もうリョーマ君、…せっかく先輩方皆にお祝いしてもらったのに」
「完全にクリスマスの『ついで』だけどね」
12月24日は、クリスマスイブ…そしてリョーマの誕生日でもある。
今回のパーティーは、クリスマスパーティー兼リョーマの誕生日会であったのだ。
そしてその帰り道。
リョーマと桜乃の家は途中までは同じ方向なので一緒の道を歩いていた。
(何か…何かしゃべらないと。せっかく二人きりなのに…)
リョーマに対して密かな想いを抱いている桜乃は、どんな形であれリョーマの誕生日を共に祝えたことは嬉しいことであった。
しかしリョーマは先輩たちに絡まれていて、パーティーの間桜乃はなかなかリョーマに話しかけられずにいた。
だけど今は二人きり。
リョーマと話をする絶好の機会。
「あ、あの、リョーマ君」
「何?」
「えっと…、さ、寒いね」
「何言ってんの。当然じゃん」
「そ、そうだよね」
(うわ〜〜〜んっ!どうしてもっと気の利いた会話ができなの私〜〜〜)
自分の不甲斐なさに心の中で嘆く桜乃。
短い会話が終わると桜乃は黙りリョーマからも口を開くことはなく、しん…と静かな帰り道。
少しずつ、分かれ道に近づいていくのがわかる。
(明日から冬休み…会えなくなるのに)
桜乃は持っていた自分の鞄をぎゅっと抱き締めた。
中には一つの包みが入っている。
桜乃がリョーマのために用意した誕生日プレゼント。
中身は桜乃の手編みの手袋。
パーティーのときからずっと渡せず、今にいたる。
(彼女でもないのにプレゼントなんて…しかも手編み…厚かましいかな)
そんなためらいが邪魔をして、桜乃はリョーマにプレゼントを渡せなかった。
(もうすぐ…別れちゃう…のに)
結局ろくに会話もできず、プレゼントも渡せないまま分かれ道についてしまった。
(はぁ…やっぱり駄目だった…)
「それじゃリョーマ君、また……あれ?」
「…何?」
挨拶をしようと道が別れる手前で立ち止まった桜乃に、リョーマは少し道を進んでから止まった桜乃に気付いて振り返る。
「どうかしたの?竜崎」
「え、どうして、リョーマ君そっちに…」
分かれ道でリョーマが進んだ道は、桜乃の家に続く方向だった。
「竜崎、自分ちの方向もわかんないの?」
「わ、わかるもん!だって、リョーマ君ちはそっちじゃな…」
「送ってくって。家まで」
「へっ…?」
リョーマの思いがけない言葉にキョトンとする桜乃。
「言わなかったっけ?」
「き、…聞いてないよ!」
「そ。じゃ、送ってくから。行こ」
「あ、ま、待って!」
再び歩き始めたリョーマに桜乃は慌ててついていく。
(家まで送ってくれるなんて…嘘みたい)
リョーマに追い付いた桜乃は横のリョーマをチラ…と見た。
「リョーマ君…」
「何」
「あの…ありがとう」
「別に」
リョーマは相変わらずそっけない態度。
それでも桜乃は、嬉しかった。
少しだけ延びた、二人の時間。
一度は無理だと、諦めたこと。
だけど、もう一度…チャンスがあるのなら。
(やっぱり、渡したいよ…)
どうか…ほんの少しだけ、勇気を…。
「リョーマ君、あのね…」
桜乃が立ち止まると、リョーマも立ち止まり桜乃を見る。
桜乃は鞄から一つの包みを取り出した。
「お誕生日、おめでとう」
震える手で差し出すと、少し間があってからリョーマが口を開いた。
「くれんの?」
包みを見ながら聞くリョーマに、桜乃はこくこくと頷いた。
「ふーん…サンキュ」
そう言ってから包みを受けとるリョーマ。
その瞬間、桜乃から一気に緊張が解けた。
「よ、良かったぁ〜…」
「? 何が」
「プレゼント、渡せて……リョーマ君が受け取ってくれて」
「何それ」
呆れ顔のリョーマ。
だけど桜乃はにこにこ笑っている。
渡せたことが、よほど嬉しかったらしい。
「…竜崎からのを受け取らないはずないじゃん」
一つ小さくため息をついた後、リョーマはボソッと呟いた。
「? リョーマ君、何か言った?」
「何も」
リョーマの呟きを聞き取れなかった桜乃がリョーマに問うが、はぐらかせてしまう。
「??」
「ねえ、いつまで立ち止まってんの?先行くよ」
「あっ、待ってよ〜〜」
今夜、桜乃のだした小さな勇気。
きっと、この先の…大きな勇気に繋がるだろう。
気持ちを伝える、その日のために―…。
【小さな勇気】
(渡せて…本当に良かった!)
end
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