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□嘘か本気か
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俺の中に僅かに生まれた気持ちは、気付けばはっきりとカタチになっていた。
それはもう、誤魔化しようのないもので――…。
「…仁王さん?」
東京の街中を1人ぶらついていたら、声を掛けてきたのはおさげの少女。
まさか…、会えるなんて思ってはいなかった。
別に東京の住むこの少女が東京の街を歩いていても、なんらおかしいことではないんじゃが。
「おう竜崎。偶然じゃのう」
感情を見抜かれないように、平静を装い挨拶をする。
そう、確かに確率的には高いとは思えないけど、偶然会えたとしたって別におかしくはない。
ただ、…俺が嬉しいだけのこと。
「今日はどうしたんですか?東京で、何か用があったんですか?」
「ああ…そうじゃな、竜崎に会いに来たんじゃ」
「えっ!?…な、何言ってるんですか、もう…」
真っ赤になって、上目遣いで俺を睨む竜崎。
からかわれた、と思ってるんじゃろうな。
可愛い顔で睨まれたって効果はないんじゃけど。
…それに。
嘘のようで、半分は本気。
ただ気まぐれに東京来てみたけれど、心の奥では…もしかしたら会えるかも、なんて期待していた。
もっとも、期待といっても、会えたらいいな、くらいのほとんど願望のようなもの。
本気で会えるなんて思っていなかったし、まして会う約束をしているわけでもない。
東京という場所だって、人間2人がたまたま会うには広すぎる。
だからこそ、…本当に会えるはずはないだなんて思ってたからこそ、偶然会えたことの嬉しさも大きいんじゃろうな。
「竜崎、これから暇か?」
「えっ、はい…特に予定はないです」
「それじゃ、俺に付き合ってもらおうかの」
「え、…えっ?」
きょとんとしている竜崎の右手を左手で握って、にやりと笑った。
「せっかく会ったんじゃ。俺とデートでもせんか?」
「でっ、デデデート!?」
竜崎の答えを待たずに、手を繋いだまま歩き出す。
竜崎は戸惑った顔で俺を見ながらついてきた。
「あ、あのっ」
「ん?なんじゃ?」
「いいんですか?その…、デ、デートの相手が私で……」
仁王さんなら他にいくらでも相手がいるでしょうに…、とうつむきながら小さく呟いた竜崎。
何言ってるんじゃ、この娘は。
そんなの…、竜崎がいいに決まっとるのに。
「…会いに来たと言ったじゃろ」
「…そ、それは」
「会いたかったんじゃ、…竜崎に」
「…っ、仁王さ」
「嘘、…じゃと思うか?」
真剣な目で、竜崎を見つめた。
「に、仁王さん…?」
「本気じゃったら、…竜崎は俺のモノになるか?」
逸らされないように、じっと竜崎の瞳を真っ直ぐに捉える。
「…あ、あの…っ」
「…ふ、」
「…っ!!…や、やっぱりからかってたんですかぁ!」
思わず口許を緩めた俺に、竜崎は顔を赤くして怒った。
もぉ〜!と頬を膨らます竜崎に、はは、と笑って誤魔化した。
からかったわけじゃない。
あまりに自分が本気だったから、予想外過ぎて笑っただけ。
本当は全部、本気。
嘘なんかない、なんて。
素直に言えないのは、詐欺師な俺のせいなのか。
はぁ…、恋だなんて自覚してから、まったくもって俺らしくない。
こんな情けない俺に気付かされたのは、全部このおさげ娘のせい。
仕返しに、絶対に手に入れてやるからな。
…もちろん、俺らしいやり方で。
【嘘か本気か】
(素直に言えないなんて、なかなか厄介な性分じゃな、俺も)
end