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□愛の試練
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「あ、あの…財前さん」
「ん?」
「ちょっとご相談したいことが…」
恋人の桜乃と俺の部屋でのデート中。
桜乃が不意に改まって話し出した。
「相談?」
「はい…」
「なに?」
「その…、…私」
「うん?」
「…ピアス、したいんですっ」
「へ?」
思いがけない言葉が桜乃の口から出てきて、つい間抜けな声を返してしまった。
「どうしたんや?いきなり。」
「や、やっぱり似合いませんかね…?」
「んー、いや…そういうわけやなくて」
今どきの高校生がピアスをしたいと思ったって別になんらおかしくない。
せやけど桜乃はおとなしいタイプやから、そんなこと言うなんて正直意外やった。
ていうか、耳に穴とか恐くて開けらんなそうとか思ってた。
「だって、ピアスって…なんだか財前さんぽいというか…」
「俺っぽい?」
「財前さんは、私が出会ったころはもうピアスつけていましたから。似合ってましたし、最初からピアスしているってイメージなんです」
「あー、まあ…俺は中学んときからピアスしとるからなあ」
「だから…、他の何かよりピアスが一番いいかなぁって」
「? 何が?」
桜乃の言いたいことがよくわからなくて聞き返すと、頬を赤く染めて桜乃は視線をすこし下にずらした。
あまりに可愛らしい様子に思わずドキッとする。
「ピアスをしてれば、いつでも財前さんを感じていられると思って…」
「………」
…え?なんや?
誘ってんのか?
男の部屋で。
そんな顔して。
そんな可愛いこと言って。
どう見ても誘ってる。
……いや待て。待て俺。
…桜乃やで、桜乃。
桜乃に限って意図的に誘ってるなんてあり得へんわ…。
「だから…、お揃いのピアスしたいな…なんて」
「………」
頬を染めたままえへっと笑ってそう言う桜乃。
…凶悪的。
もう…俺の理性を試しているとしか思えへん。
「ざ、財前さん…?やっぱりイヤですか?」
「ん…?イヤなわけないやろ。嬉しいけどな」
「けど…?」
「耳に穴開けるんやで?桜乃、できるん?なんなら俺が開けてやるけど…」
「あ…」
そっと桜乃の耳に触れてみる。
桜乃はちょっと不安そうに顔をうつむかせたけど、その状態で俺を見上げてきた。
「その…ちょっと恐いですけれど…財前さんがしてくれるなら…平気です」
「………!」
不安そうに少しだけ潤ませた瞳。
上目遣い。
朱色に染まった頬。
そしてトドメのその台詞。
完全にノックアウト。
…理性が、
崩れていくのを感じる。
ああ、もう…。
「…っ…さく」
「財前さんっ、今からピアス見に行きませんか?」
「へ…っ?」
もう押し倒してしまおうとしたら、キラキラとした瞳でそんなことを言ってくる桜乃。
「選びたいんです…お揃いの。ダメですか?」
「い、いや…せやな。ほな、俺がいつも買ってる店に行くか…」
「わぁい、ありがとうございます!」
桜乃に気付かれないようにこっそりため息をついた。
ここでお預けなんて、お年頃の男子高校生には結構キツいもんがある。
せやけど無邪気に喜んでいる桜乃を見て、まあ…またいつかでいいか…なんて。
桜乃と付き合ってから絶対我慢強くなったわ俺、としみじみ思った日曜日だった。
【愛の試練】
(うーん…しかしいつになるんやろ)(? 何がですか?)(いや、こっちの話)
end
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