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□桜が咲く頃に
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1月14日。
今日はとてもとても特別な日。
桜乃にとって…、そして、俺にとっても。
「わあ…、すごい綺麗」
「せやろ」
「えへへ、今日はいろいろありがとうございました、光さん」
「ええって。今日は特別なんやから」
学生のころからの恋人である桜乃。
今日は桜乃の誕生日。
デートをして、お洒落なレストランでのディナーをとった後、予約しておいた夜景が綺麗なホテルの部屋で二人の時間を過ごしている。
いい感じのホテルの部屋で二人きり。
キラキラとした瞳で夜景を眺めている桜乃。
桜乃の純粋っぷりは相変わらず。
そんなとこも好きやけど。
とは言ってもまあ…俺らやってもう、子供やないんやし。
別に初めてなわけでもないし。
多少困難であれそういう雰囲気にもってくことが不可能なわけやない。
せやけど、今日はその前に。
やらなければいけないことがある。
今日は桜乃の誕生日。
勿論それは特別なんやけど。
俺にはもうひとつ、特別な理由がある。
俺は壁一面の窓から夜景を眺めている桜乃に近付いて、後ろから抱き締める。
「光さ…」
「桜乃。誕生日おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
すでに伝えた言葉を、改めて言う。
「…まだ、プレゼント渡してたかったな」
「え?いっぱい貰いましたよ?お食事とか、このお部屋とか…」
「そんなん、オマケみたいなもんやから。…桜乃、こっち向いて」
抱き締めていた手をほどいて、桜乃にこちらを向かせ、向かい合わせの状態になる。
俺はポケットから用意をしておいたケースを取り出した。
ケースの中にはキラキラと光る宝石がついた指輪が収まっている。
「光さん…、これは…」
「なあ、結婚せえへん?」
「!! え…っ?」
唐突な俺の言葉に、目を丸くする桜乃。
ぱちぱちとまばたきをしながら指輪と俺を交互にみる。
まあ、予想通りの反応ってとこやな。
「あ、あの…今、なんて…」
「け・っ・こ・ん。せえへんか?俺と。」
「け…結婚?」
「うん。俺の奥さんになって、桜乃」
「お…奥さん?」
「そう。」
まだ理解しきれていないような桜乃の瞳を、俺はまっすぐにじっと見つめる。
「俺は一生…桜乃のそばにいたい」
「ひ、かるさ…」
「一生、桜乃と一緒に生きていきたい」
「…!」
「なあ…桜乃は?俺とずっと一緒なのは嫌?」
「! い、嫌だなんて!私も、私だって…!ずっと…!」
「…ずっと?」
「ずっと…光さんとそばにいたい…一緒に生きていきたい…です」
顔を紅く染めて、瞳を潤ませながら、桜乃はそう返してくれた。
「ほな、指輪…受け取ってくれる?」
「はい…」
桜乃は躊躇いがちに左手を前に出して、おずおずと俺を見上げた。
俺はそんな可愛い桜乃の様子に小さな笑みをこぼして、小さくて白い手をとり、その細い薬指に指輪をはめた。
そして俺はゆっくりと桜乃を胸に抱きよせた。
「…うーん…」
「…? どうしたんですか?」
「いや…桜乃の誕生日なんに、俺が桜乃をお嫁さんに貰う約束しちゃったなーと思って」
「っ! …あっ、で、でも、私はもういろいろ貰いましたからっ」
「でも俺が貰う方が大きいから。比べようもない程」
「そ、そんなこと…、」
せっかくやから桜乃の誕生日にプロポーズしよって決めてたけど、これやと俺の方が全然得やったな。
ふとそう思ったから口にしてみたんやけど、桜乃は俺の腕の中で、うーん…、としばらく考えたあと、あっ!と声を出した。
「だったら、光さんのお誕生日に式を挙げるのは」
「却下。」
「…そ、即答ですね…」
「当然や。半年も待てんわ」
俺の誕生日は7月。
今は1月。
いくら準備が必要っていっても、今から半年なんて待てない。
出来れば今すぐに欲しいくらいなんやから。
…けど、そうやな。
式はいつ挙げようか。
「…あ、せや。」
「? なんですか?」
「俺と桜乃の誕生日の中間…4月はどうや?」
「4月、ですか?」
「そう。…ちょうど、桜が満開な時期に…桜の木がある教会とかで」
「! わあ…きっと素敵です…」
「せやろ?」
想像して、二人で笑い合う。
桜が舞う中を歩く、ウェディングドレスを纏った桜乃。
きっと…世界中のどこの花嫁よりも綺麗やろうな。
「桜乃」
「はい」
「もう一度、ちゃんと答えを聞かせて?」
「…え?あ…」
「…俺と、結婚しよう。」
「…はい。光さん」
絶対…、
絶対に幸せにするから。
一生、愛してるから。
せやから…これからも、
ずっと俺のそばにいてな…?
【桜が咲く頃に】
(そこからまた、始めよう。新しい、俺たちを―…)
end
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