□ラブ・シック
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テニスでは、かなり色んな技を習得してきたし、感情を消して、心を閉ざすこともできる。

天才だとか呼ばれたりもしてる。

テニス以外にも…、勉強や音楽、大体のことはそつなくこなしてきた。
何かに必死になる、ということは今までわりと少なかったのかもしれない。

だからなのか、クールだとか淡白なイメージをもたれることも多い。

まあ、それはそれでいいんやけど。
つまり俺は、クールにスマートに、何でもそつなくこなせるタイプやって自負してた。


そう…せやから、恋愛だって。

もっと、クールにスマートに、
…こなすつもりやったのに。





「桜乃」

「はい」

「抱きしめてええ?」

「は…えっ!?」

「嫌?」

「い、いえっ、いやってわけじゃ、きゃっ!!」


唐突な俺の言葉に真っ赤になった桜乃。
可愛えなぁ…と思いながら俺はちゃんとした答えを待たずに桜乃をぎゅっと抱きしめる。


「も、もう忍足さん!…いきなり、びっくりすりじゃないですか…」

「ええやん。俺の部屋やし。他に誰も見てへんのやから」

「そ、そういう問題じゃ…」


外に出掛けるんもええけど、部屋でのデートは遠慮なくいちゃつけるからええよなぁ。

別に抱きしめるのだって何度もしてるのに、毎度毎度顔を真っ赤にして新鮮な反応を見せてくれる桜乃。
ほんま可愛えなあ、可愛いすぎや。
俺は桜乃を抱きしめたまま、耳許に唇を寄せた。


「桜乃…」

「ひゃ…っ!?お、忍足さんっ!」

「ん…?なんや?」

「み…耳っ!耳は…」

「耳…?」


…耳に直接、吐息を交えた声で話しかける。
桜乃の言いたいことなんて簡単にわかるけど、しれっとしてそのまま聞き返す。

耳が弱いなんてとっくに把握済みや。


「み、耳許で、しゃべっちゃ…だめ…ですっ」

「なんで…?」

「あっ…なんで…って」

「理由言ってくれなきゃ…やめへんで…?」

「っ…や…」


桜乃は俺の胸を手で押して、俺から逃れようと力を入れてくるけど、そんなの許すはずもなくがっちりと抱きしめたままで、唇も耳許に寄せたまま俺は更に続けた。


「桜乃…」

「…お、したり…さ…」

「…好きやで…」

「っ!!」


俺の胸を押す力が止んで、代わりに胸のあたりの服をぎゅっと掴まれるのがわかった。



「ず、ずるいです…」

「…ん?」

「わ、私ばっかり…ドキドキして…」

「……」


…こうして抱きしめていると、桜乃の鼓動も感じる。
ドキドキと、速く鳴ってるのもわかる。

私"ばっかり"、か。
…桜乃は気付いてないんやな。
俺の鼓動やって、同じ速さで鳴ってることに。

そんなことを考えていたら、桜乃がもぞもぞと俺の腕の中で動いた。
さっきみたいに逃げようとしてるわけやなく、体勢を変えようとしているようやった。

苦しかったんか?なんて思った瞬間。

──ちゅっ。


と一瞬、柔らかいものが俺の頬に触れた。


それはすぐに桜乃の小さくて可愛らしい唇やって、理解はできたものの。
恥ずかしがりやな桜乃からの意外な行動に、すぐには反応ができなかった。

そんな呆然としていた俺に向かって、桜乃は頬を染めてちょっと照れた笑顔(凶悪)で、トドメの一言を言い放つ。


「えへ…、仕返し、ですっ」



………。

〜〜〜…っっ。


キョ…キョーレツ。


クラッとキタわ…。
これはヤバい。
ヤバすぎる。

ほっぺにちゅう(※凶悪笑顔付き)でこの威力は…。
つ、強すぎる…。



…クールに、スマートに?

キメられるんもんならキメたいくらいや。
そんな余裕なんてない。

いつだって、翻弄されるのは俺の方。

恋愛とか、得意分野やと思っとったのに。
惚れたら負けなんて、よく言ったわ。
結局俺は、桜乃には勝てない。


誰かをこんなにも深く愛することができるなんて、知らなかった。

クールに、そつなくこなすなんて、とてもできそうもない。
どうしようもないほど、桜乃のことを愛してる。



「はぁ…」

「? 忍足さ、…きゃっ」


ひとつため息をついた後、俺は桜乃を姫だっこ仕様で抱き上げた。



「お…忍足さん?」


戸惑う桜乃を無視して、ベッドの上にそっと下ろした。
俺はそのまま桜乃の上に覆い被さる。


「あ、あの…」

「…責任。とってもらわなきゃな」

「えっ?な、なんの…」

「愛してるで、桜乃…」

「っ!…んっ」



愛の言葉と甘いキスで、桜乃の言葉をのみ込んだ。

今日は部屋デートや、なんの遠慮も要らんよなぁ。

…俺を、こんなにも夢中にさせた責任。

しっかりととってもらうで?



【ラブ・シック】

(俺がどれだけ桜乃が好きなのか、わからせてやるわ。)




end
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