□まずは甘いものから
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アメリカのとある警備会社。
非常に信頼度が高く、大手企業、有名大学、大富豪の屋敷などを主な対象にして、幅広い活躍を見せていた。

そしてその警備会社を経営しているのは、ある一人の日本人だった。




「社長、ご確認をお願いします!」

「あぁ?この場所はこんなもんじゃ甘えだろ。もっと警備を厚くしろ。それとこっちもだ」

「は、はい!」


社員に厳しくも的確な指示を出す社長、亜久津仁。
鋭い洞察力と天才的な知能を持ち合わせていたゆえに、若くして社長となり会社を大きくしたやり手である。

そんなやり手の若社長の亜久津は、帰宅時間は案外早い。
それは要領良くてきぱきと仕事を片付けてしまうからでもあるが、実は毎日、仕事が終わるとどこにも寄らずにまっすぐと自宅に帰るからであった。

亜久津が帰宅時間をなるべく早めているのには理由がある。

それは―…。



「仁さん、おかえりなさいっ」


自宅に着いた亜久津を迎えたのは、亜久津の妻である桜乃。

亜久津は桜乃が待つ家に早く帰るために、いつも仕事をさっさと片付けていた。
社員には厳しい亜久津だが、実はかなりの愛妻家だということを知る者はほとんどいない。

二人はまだ日本にいた学生のときに付き合い始め、今は結婚してアメリカに二人で暮らしている。


「お仕事お疲れ様です」

「俺がいない間、何も変わったことはなかっただろうな?」

「大丈夫ですよ〜。」

「…何かあったら絶対に俺に連絡しろ。わかってるな?」

「はい!わかってます」

「……」


にこにこと答える桜乃はどこかふわふわと危なっかしい雰囲気を持っている。
もともと亜久津が警備会社を経営し始めたきっかけは、付き合った当初から桜乃の護身に気を遣っていたことだったというのは、桜乃でさえ知らないが事実である。

ちなみに、この家は亜久津監修の下、万全なセキュリティ完備がなされている。


「お風呂とご飯、どっちにします?」

「飯」

「わかりました!…あ、今日モンブランを作ったんですけど、食後に食べます?」

「…今食う」

「え?じゃあお夕飯は」

「モンブランが先だ」

「わかりました、まずはモンブランですね!じゃあ紅茶入れてきますっ」

「おい待て。…まずはお前だ」

「えっ?」


キッチンに戻ろうとした桜乃を呼び止め、亜久津はぐいっと桜乃の腰を引き寄せた。


「!…んっ…ふ…」


亜久津はそのまま貪るように桜乃の唇を奪う。
唐突な激しいキスに桜乃は力が入れられずに、亜久津に身を任せていた。


「ん……、じ…仁さ…」

「…モンブラン。俺が着替えている間に用意しとけ」

「は、はい……」

亜久津は真っ赤になった桜乃を見てフ、と満足そうに笑った後そう言い残してネクタイをほどきながら自室に向かう。
一方、長いキスからやっと解放された桜乃は、言われた通り用意をするために、よろよろと壁をつたいながらキッチンに戻って行ったのだった。



【まずは甘いものから】

(モンブランも甘いけど、仁さんのキスには勝てません…)



end
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